2011年3月26日(土)「しんぶん赤旗」

主張

薬害イレッサ訴訟判決

命と安全守る国の責任果たせ


 800人以上もの副作用死を起こした抗がん剤「イレッサ」をめぐる薬害訴訟で東京地裁が、輸入販売元の製薬企業と並び国の賠償責任を認める判決を出しました。

 先行した大阪地裁の判決は、国の行政指導の不十分さを指摘しながら法的責任は否定しました。今回の判決で、不十分な行政指導によって薬害を引き起こした国の責任はいっそう明確になりました。提訴から6年半、イレッサをめぐる問題点と課題はすでに明確です。国と製薬企業はいたずらに裁判をひきのばさず、協議を通じての全面解決に応じるべきです。

営利優先抑えよ

 今回の判決は製薬企業に対して、大阪地裁と同様に、イレッサ発売時の医療機関向けの説明である「添付文書」に製造物責任法上の欠陥があったとして賠償を命じました。死に至る重大な副作用である間質性肺炎が警告欄に記載されていなかったことは、抗がん剤の副作用情報の開示として不十分だったとしたものです。

 さらに東京判決は、「必要な使用上の注意事項が基本的に記載されていなければならない」という添付文書の位置づけを明確にしたうえ、安全性確保のための「行政指導を行う権限を行使する責務」を厚生労働大臣に求め、その権限が行使されなければ、国家賠償法上の違法行為として賠償責任が生じると国の責任を認めたのです。

 判決は、国と製薬企業の関係性についても立ち入った指摘をしています。「営利企業である業者が安全性確保のために営業上不利益となる情報をすすんで(添付文書に)記載することは十全に期待しがたい」のだから、国が適切な行政指導をしないことは「医薬品による国民の健康侵害を防止する観点からは許されない」としたのです。

 利潤を追求する製薬企業は、薬を多く売るために副作用情報を隠しかねない。だから国は、国民の命と安全を守るために厳正な指導をしなければならない。国と製薬企業は、緊張関係を保たなければならないということです。

 現実には、製薬企業は厚労省から多数の天下りを受け入れています。製薬企業が大学や病院、医師に研究費や寄付として流している資金も巨額です。イレッサ訴訟では、2005年にイレッサの使用指針をまとめた日本肺癌(がん)学会員の所属する大学の講座に2千万円もの寄付や研究費が贈られていたことが明らかにされました。

 こうした製薬企業と厚労省、学会関係者との結びつきがあるなかで、本当に中立で科学的な研究が行われているのか、国民の命と安全を第一とする公正な薬事行政が確保されるのかという深刻な疑念も指摘されています。

全面解決へ真剣に

 イレッサ訴訟は、安全に、しかも早く、抗がん剤を使用できる薬事行政を求めたものです。新薬を求めている患者は多数います。だれもが正確な情報を得られ、本当に安心して薬を使えるようにすることこそ、この訴訟の願いです。

 全面解決のためには、原告全員の救済、未提訴の被害者を救済するためのルールづくり、抗がん剤による副作用死についての新しい救済制度の創設など、国と政治が真剣に考えなければならない多くの課題があります。命と安全のために、イレッサ事件の教訓を薬害防止に深く生かすべきです。





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