2011年3月3日(木)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 洗濯物を干していたら、雨が落ちてきました。薄日がさしています。洗濯物をしまうかどうか迷う、ほんの少しの雨滴、涙雨▼涙雨は、あるいは涙雨という言葉は、さまざまな情景をよび起こします。たとえば、ジャズ演奏の一瞬。ピアノのさりげない一打やトランペットの弱奏、ベースのうなりから、涙のようにこぼれ落ちる音▼1960年代初め、ある女性がアメリカでジャズ音楽家300人に問いました。特別な三つの願いは何? 答えを読み、意外な感じを受けました(鈴木孝弥訳『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』)▼「平和」や「愛」の答えは多い。「社会主義」を望む人もいます。しかし、もっとも目立つ答えは「お金」「カネ」。改めて考えると、意外ではありませんでした。差別されてきた貧しい黒人音楽家の、差し迫った本音でしたから▼三つの願いを尋ねた女性はパノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター、愛称ニカ。ロスチャイルド財閥の家系の生まれ。第2次大戦中はフランスの反ナチス運動に加わり、戦後アメリカでジャズ音楽家と親交を深め、彼らを助けます。才能を見いだし、彼らの仕事の場をふやし、居所を失った人を自宅に住まわせ…▼白人女性と黒人男性が一緒にいれば人が避けて通った時代、彼女は黒人と腕を組んで歩きました。1988年、75歳で死去。感謝とたたえる言葉に包まれた彼女の遺灰は、遺言通り真夜中のハドソン川にまかれました。「葬式などの悲しい時に降る雨」も、涙雨といいます。





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