2011年1月27日(木)「しんぶん赤旗」

国に責任、賠償命令

海自艦いじめ自殺訴訟

横浜地裁


 海上自衛隊横須賀基地の護衛艦「たちかぜ」の一等海士(21)=当時=が2004年、自殺したのは上司によるいじめが原因だとして、両親が国と元上司を相手取り、損害賠償を求めた訴訟で横浜地裁は26日、上司の言動といじめの事実的因果関係、国の指導監督義務違反を認め、約440万円の賠償を国に命じました。

 判決理由で水野邦夫裁判長は自殺した一等海士の上司である佐藤治船務科電測員が「業務上の不満にかこつけて暴力をふるい、アダルトビデオを売りつけるなどの恐喝、暴行は職務に関係なく不法行為責任を負うべきである」と指摘。上司の行為については「客観的、外形的に見て職務の内容と密接に関連し、国は責任を免れない」としたうえで、「分隊長は何らの措置も講じておらず、班長もこれを放置しており指導監督義務違反にあたる」と断じました。

 しかし被告側や上司が自殺を「予見することができたとは認められない」として損害賠償は認めませんでした。

 原告弁護団の岡田尚弁護士は、「原告の主張を全体として認めながら、自殺は予見不可能とした判断は納得できない。控訴して全面的な責任を明らかにしたい」と話しました。

 自殺した自衛官の遺影を抱いて傍聴した原告の母親(56)は、「被告の違法行為や自衛隊の指導監督義務違反を認めながら、自殺との関係を認めなければ息子の人権は守れない。いじめを隠蔽(いんぺい)する体質も変わらない」と涙をぬぐいました。


解説

母親の訴え立証された

 「息子はいじめの告発ノートを抱いて命を絶った」。原告の母親が悲しみをこらえて訴えてきた真実が立証されました。

 毎年100人に及ぶ自殺者が続出する自衛隊。隊内のいじめが原因との事実的因果関係を認めた判決(損害賠償は認めず)は、「さわぎり」事件(08年)の福岡高裁につぐものです。

 原告側は「さわぎり」事件の高裁判決を準備書面とともに提出、自衛隊による隊員への指導監督義務責任の定着の流れを主張してきました。

 公判では国・自衛隊がいじめの事実を知りながら放置しただけでなく、調査報告書などの非開示や組織的な偽証で隠蔽してきた事実を立証しました。

 自衛隊にまん延するいじめ放置、相次ぐ隊員の自殺の背後に、憲法の禁ずる海外派兵、そこに向けた日米共同演習強化などによる隊員の過重負担を「精強」「任務必遂」の号令で乗り切る軍事優先、人権の軽視が指摘されています。

 「たちかぜ」は当時、護衛艦隊司令官(海将)が乗艦、艦隊を指揮する旗艦でした。そこでのいじめと自殺の事実的因果関係と自衛隊の監督責任を認めた判決を国は重く受け止め、全自衛隊での実効ある再発防止に着手すべきです。 (山本眞直)





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