2011年1月26日(水)「しんぶん赤旗」

主張

B型肝炎訴訟和解協議

「苦渋の選択」に国はこたえよ


 まさに「苦渋の選択」(原告団声明)といえます。集団予防接種時の注射器の使いまわしで感染が拡大したB型肝炎の訴訟で、原告団が札幌地裁の示した「所見」を受け入れることを決めました。

 和解金は、薬害肝炎救済法の賠償水準さえ下回り、とくに発症前の持続感染者(キャリアー)へは50万円と、救済内容はきわめて不十分です。それでも、病状が重い原告も多く一刻も早い解決が望まれます。和解をすべての被害者の救済への出発点としたいという思いからの原告らの重い決断です。国は誠意をもって、和解の実現に最大限の努力をすべきです。

謝罪から始めるべきだ

 菅直人首相は国会の施政方針演説で「裁判所の所見には、前向きに対応し、国民の皆さまのご理解を得ながら早期の和解を目指します」と正式に表明しました。そうであるなら、和解の前提となる条件を整える国の独自の責任を果たさなければなりません。

 B型肝炎は、感染拡大の危険性が予見可能であったにもかかわらず、1948年から40年間にもわたって注射器の使いまわしを放置したことによって広がりました。国の加害責任は確定した最高裁判決でも明確に認められています。

 菅首相は、和解成立への熱意を示すために、まず被害者にたいして真摯(しんし)に謝罪することから始めるべきです。そして、過去に何が起きたのか、いま被害者がどういう苦しみを味わっているのかを国民にたいし正確に説明しなければなりません。

 長期にわたった危険な予防接種は、義務として行われたものです。国民だれもが感染してもおかしくない危険にさらされました。まだ自分の感染に気付いていない人が多数いる可能性があります。国は、確認のためのB型肝炎検査を受けるよう広く知らせる必要があります。全国民に謝罪し、感染が分かった人には、十分な救済を確実に行うことを約束すべきです。

 被害者の全員救済のためには、認定を広くすることを求めた「所見」の精神をふまえ、具体的な方法を決めることが必要です。国が主張する除斥(じょせき)期間で、慢性肝炎を発症して20年以上たった患者を救済対象から切り捨てることも許されません。

 なぜこれほど深刻な感染拡大がおこったのか、真相解明と再発防止も強く求められます。キャリアーを含むすべてのウイルス性肝炎患者が安心して検査・治療を受け、生活していくことができる恒久対策を実現すべきです。

 国が、和解案に沿って救済をした場合、今後30年間に最大3兆2千億円が必要になるという過大な試算を示しながら、そのためには所得税の増税が必要だなどと言い出しているのは重大です。

増税論は不誠実のきわみ

 国の試算は、推定に推定を重ねた上に、過大で非現実的な対象人数で計算していると批判されています。昨年12月27日の日本共産党の申し入れでは、厚生労働省の岡本充功政務官が「賠償金額を大きく見積もりすぎた」と認めました。

 そんな非常識な数字を一人歩きさせ、「増税」論で、国民とB型肝炎被害者を分断、対立に仕向けるような態度は、誠実に和解を目指す姿勢とはいえません。

 過去の加害を償うために、財源対策を講じ、国民の理解を広げることは国の責任です。





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