2011年1月17日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

地球の薬箱 薬用植物

自然の恵み守るには


 今年から、生物多様性の保護を重点的に取り組む期間とする「生物多様性の10年」(国連決議)が始まりました。国際環境NGO「トラフィックイーストアジアジャパン」(石原明子代表)は、薬用植物の持続可能な利用と、公平な取引を推進する取り組みをしています。(栗原千鶴)


 いま私たちの身近では生物の多様性が急速に失われています。

 一方で、イラストレーターのさかなクンが、絶滅したとみられていたクニマスを「再発見」したのは記憶に新しいところです。生物多様性の保全と持続可能な利用は、人類社会を守る上でも欠かせません。

 漢方薬やアロマオイル、ハーブなど、私たちの生活に身近で、深いかかわりを持っているのが薬用植物です。

絶滅の危機も

 同NGOは、昨年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で「地球の『薬箱』を救え」と題してセミナーを開催。薬用植物の生息地で、そこに住み、使ってきた現地の人々を招き実情を聞きました。会場は若い世代も含めてたくさんの人でうまりました。

 ケニア東部に暮らす先住民族イヤク族のリーダーは、村には病院がなく、約500人の部族の8割は、森の薬用植物を利用していると話しました。彼らは森に入ると、植物のどの部分が自分に必要なのかを考えるといいます。葉っぱ、根っこ、果実など、どこも無駄にならないように採取し、持続可能な形で使ってきました。

 ブラジル北西部のヤワナワ族のリーダーは、外部の人たちが、どの植物がどのような効果があるのかを聞き出し、ビジネスにしようとしているといいます。農園にするために森が切り開かれたり、業者の乱獲にあったり、地元の人々の生活は危機に直面しています。

公平な取引を

 同NGOは、「フェアワイルド」を提唱しています。これは植物を採取する際に持続可能な形で行っているか、法律や協定などを順守しているか、採取者と採取地への利益配分がきちんと行われているかなどの基準を設け、それを守っている製品にはフェアワイルドのロゴをつけ、消費者がそうした製品を選択できるようにしていく取り組みです。日本では、まだこの取り組みに参加する企業を募り始めたばかりです。

 「もっと薬用植物の問題を多くの方に一緒に考えてもらいたい」と、同NGOで薬用植物を担当する金成かほるさんはいいます。

 「みなさんの身の回りの製品の多くに、自然の恵みが含まれています。薬、化粧品、お香など、その製品に使われた薬用植物がどこの国からきたのか、背後にどのようなストーリーがあるのかに、思いをはせてもらいたいと思います」


日本は消費大国

 世界的な健康ブームなどを背景に、薬用植物の世界的取引は、増えるばかりです。

 日本も例外ではなく、日本漢方生薬製剤協会によると漢方薬生産額は、直近の数年間で、年間4〜5%の割合で増加しているといいます。日本人が多く利用している生薬はウコン、ハトムギなど植物に由来するものが多くあります。国産は全体の12%で、83%が中国から輸入しています。

 薬用やアロマティック植物に由来する製品の輸入額は2007年、アメリカ、香港、ドイツについで世界第4位でした(表参照)。

 輸出量の多い上位3カ国・地域と比べ、日本は世界有数の消費大国です。

 野生の薬用植物は、栽培が難しいものもあり、野生でしかできない成分もあります。また栽培が可能でも、成長が遅い、コストがかかるなどさまざまな理由で、商業的な栽培が行われているのは900種ほど。天然のものが体によいと考える消費者も少なくないため、今後も野生からの採取は続けられるといわれています。


 薬用植物 漢方薬や薬、香料などの原料になる植物を薬用植物といいます。これらの植物は、薬だけではなく甘味料や健康食品、香などにも使われ、生息地は東南アジアや南米、アフリカなどに多くみられます。世界中で国際取引されており、薬用植物量は年間約40万トン。約5万〜7万種といわれています。そのうち約1万5千種が過剰採取や生息地の喪失に脅かされ、絶滅の危機にひんしているといわれます。

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