2010年12月23日(木)「しんぶん赤旗」

山岳ヘリ救助 有料に

埼玉県議会可決


 22日の埼玉県議会で山岳遭難者に防災ヘリコプター出動費用負担を求める条例案が自民、民主、公明各党の賛成多数で可決されました。防災ヘリ出動で、遭難者に費用負担を求める条例は他の都道府県にありません。

 条例案は県防災ヘリの緊急運航の要件などを定めたもので、自民党が提出しました。7月に秩父山中で起きた防災ヘリ墜落事故を理由に、事故の再発防止が目的としていますが、すでに存在する防災ヘリ運航の要綱に問題があったわけではなく、条例化の必要性はありません。

 自民党は当初、条例本則に遭難者負担を明記しようとしましたが、党内外から批判があがり、遭難者負担について「早急に対応する」と付則への記述に変更しました。

 本会議で反対討論を行った日本共産党の、やぎした礼子県議は「費用負担を求められることになれば、生命に関わる緊急事態でも救難要請をちゅうちょせざるを得なくなる。遭難救助の大きな障害になりかねない」と主張しました。


解説

再発防止に反する恐れ

 自民党が9月県議会に提出しようとした当初の条例案は、山岳遭難で登山者に責任がある場合は費用を請求できるというものでした。しかし、どこまでを山岳遭難とするのか、第三者が通報した場合や本人が支払いを拒否した場合はどうなるかなど、運用上の線引きが難しく、国に制度もないことから、県執行部は難色を示していました。そうした難題を残したまま無理やり付則に盛り込み、県に対応を求める今回のやり方は無責任だといわざるをえません。

 そもそも、防災ヘリの有料化は自民党が主張するように「山岳遭難等の発生の抑止」になるのかという疑問があります。増え続ける山岳遭難を減らすために登山界ではさまざまな取り組みがされていますが、ヘリ有料化が有効だという主張はほとんどありません。それどころか、救助要請をためらって死亡事故が増加したり、費用負担を恐れて山岳スポーツそのものが抑制されたりしかねないと、多くの専門家は否定的な影響の方を懸念しています。

 自民党は提案理由にヘリ墜落事故の再発防止を掲げました。そうであるならば山岳地帯での救助実績を積み、技術水準を上げることが欠かせません。しかし、有料化になれば救助要請は減少し、出動回数が少なくなることにつながります。それは再発防止に反する結果となるでしょう。(青山俊明)





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