2010年12月8日(水)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 「ああこれでいい、これで大丈夫だ、もう決まったのだ…。予想のような重っ苦しさはちっとも感じられなかった。方向をはっきりと与えられた喜びと、弾むような身の軽さとがあって…」▼69年前の12月8日、作家の伊藤整は、日本軍の真珠湾攻撃のニュースを聞き、こんな気分にひたりました。俳優の徳川夢声も、「そら来た」と「身体がキューッとなる感じ」があふれた、と▼夢声には、街で眺めるシクラメンの花も建物も、すべてが昨日と違ってみえました。突然に訪れた気持ちのよさ、解放感。名前の知られた彼らだけでなく、庶民の多くも味わった、と伝えられています▼当時、中国への侵略戦争は泥沼に陥っていました。戦争をやめない日本に対するアメリカの圧力も、盛んに報じられていました。アメリカ・イギリスを相手にハワイやマレー半島を襲った日本軍の攻撃は、閉塞(へいそく)感を募らせる人々の「もやもや」「うっぷん」を晴らしました。ほんの一時だけ▼当時とようすが違うけれど、今の日本にも閉塞感がただよいます。細る暮らし。経済と政治の混迷。領土をめぐる隣国とのあつれき…。隣国を敵に回すような言論も目立ちます。しかし、憲法9条の不戦の誓いを忘れ、軍事力に頼る国をめざすなら、日本はふたたびアジアで孤立の道に迷い込むでしょう▼69年前、紙芝居画家の加太こうじさんは思いました。「日本は負ける。負ければ今よりはいい国になる。3、4年のしんぼうだ」。先を見る目が試されるのは、昔も今も同じです。





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