2010年12月7日(火)「しんぶん赤旗」

主張

諫早干拓訴訟

開門遅らせる根拠は破綻した


 国営諫早湾干拓事業をめぐり、佐賀、長崎、熊本、福岡の沿岸4県の漁業者らが国に潮受け堤防の撤去などを求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は排水門の開放などを命じました。

 同事業では、湾を閉め切る潮受け堤防の建設で水質が悪化、特産のタイラギ貝などが死滅、ノリの養殖も毎年のように色落ちするなどの被害を受け、“宝の海”と呼ばれた有明海を“死の海”に変えたと批判されてきました。一審の佐賀地裁に続き福岡高裁が被害を認め、排水門の開放などを命じたのは重要です。国が開放を遅らせる根拠は破綻しました。

“宝の海”を“死の海”に

 諫早湾干拓事業は1986年に始まり、99年に潮受け堤防が完成、2007年には干拓事業の完工式がおこなわれ、翌年からは干拓地での農業が始まっています。潮受け堤防の完成後、潮の流れが変わり、赤潮がひんぱんに発生し、海底にはヘドロが堆積して、有明海での漁業が大きな被害を受けたといわれます。漁業者らは工事の中止を求めるとともに、堤防の完成後はその撤去や排水門の開放などを求めてたたかってきました。

 福岡高裁の判決は、「堤防の閉め切りと、一部原告の漁業被害との因果関係は認められる」と明言しています。そのうえで「堤防の防災機能は限定的で、干拓地の営農にとって、必要不可欠とはいえない」「防災上やむをえない時は閉じることも考慮すると、堤防閉め切りによる漁業行使権の侵害状態は違法」とし、判決確定後、5年間の期限付きで堤防を常時開放するよう認めています。

 すでに一審の佐賀地裁は、堤防閉め切りと湾内の環境悪化の因果関係について、「相当程度の蓋然(がいぜん)性は立証されている」としました。堤防閉め切りと漁業被害との因果関係を明確に認めず、開門調査の前にまず環境アセスメントをなどと主張して開放を遅らせてきた国の主張が、高裁判決によって完全に崩れたことは明らかです。

 国は、すでに干拓地での営農が始まっていることなどを理由に、排水門を開放すれば「防災機能が失われ、営農が破綻しかねない」などとも主張しました。福岡高裁判決が「堤防の防災機能は限定的」「干拓地の営農にとって、必要不可欠とはいえない」とのべ、「漁業行使権の侵害状態は違法」と判断したのは、国の主張がどの面から見ても通用しないことを明らかにしたものです。

 佐賀地裁判決も福岡高裁判決も、開門までに3年間の期間をおき、代替工事などをおこなうよう求めています。政府は直ちに対策をとって排水門を開放し、農業や防災対策と両立させながら開門の効果を見定めるべきです。

無駄な公共事業見直しを

 国営諫早湾干拓事業は、計画から完成までに長い年月を費やし、総事業費は2500億円を超えています。当初は「食糧増産」をうたい文句にしながら、コメあまりがいわれると「防災対策」を持ち出すなど目的のはっきりしない公共事業の代表格です。

 政権交代後もこうした無駄な大型公共事業を見直さず、漁業者らの要求に背を向けてきた民主党政権の責任は重大です。判決を受け排水門を開放するとともに、有明海再生に向け踏み出すことこそ、民主党政権のやるべきことです。





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