2010年10月31日(日)「しんぶん赤旗」

COP10 未明採択の議定書

地球の健康保全へ“出発点”


 各国の対立で一時は採択が危ぶまれた、「遺伝資源の利用と利益配分」(ABS)に関する法的拘束力を持つ議定書。生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、暗礁に乗り上げた正規の交渉を中断し、議長国・日本が議定書案を提示するという異例の「裏技」で30日未明の採択にこぎつけました。


 「名古屋で何も採択されないよりは、“弱い議定書”でも採択された方がましだと私は思う」―議定書交渉が行き詰まる26日、アジアのある有力国の政府高官は漏らしました。

 「“弱い議定書”とは具体的にはどんな要素を含むのか」と問うと、同氏は記者の手をつかみ、「報道陣にはしゃべらない」と、にべもない返事でした。

大慌ての作業

 “弱い議定書”―。それを具体的な形にしたのが、COP10最終日の30日、「議長が提示した決定案」という表題で出された、日本の議定書案でした。

 最初に配布された文書には順守規定で脱落があり、国連の文書番号に「アステリ」(星印)を付けた修正文書が配り直されました。しかし国連の正式文書ではアステリは使われません。そこで「修正1号」という正規の表現の文書が、改めて発表される始末。かなり大慌ての作業であることを想像させる経過でした。

 その中身は、「植民地時代など同議定書発効前に得られた物質から生じる利益の共有」や「遺伝資源からの派生物による利益の共有」の扱いなど、途上国と先進国が最後まで対立した争点を避けるなど、全体として最小限の一致点でまとめたといえるもの。12年には見直し会議が開かれます。

危機感背景に

 昨年末にコペンハーゲンで開かれた気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)では、やはり国連の正規の交渉が行き詰まったために議長国デンマークが合意文書案を提示。「国連の交渉を無視するのか」と一部の国が反発し、大荒れになりました。

 今回も閉会総会で、COP15で抵抗した諸国と同じ一部中南米諸国が「提案に反対」と表明。全会一致方式のため、採択が危ぶまれる場面もありました。

 しかし、各国代表には、「コペンの失敗を繰り返すな」「名古屋で失敗すれば国連の環境外交の破たんを世界中に印象づける」との恐れが強くありました。

 来月末からメキシコ・カンクンで開かれる気候変動COP16では、13年以降の地球温暖化防止の新議定書の採択は、ほぼ困難視されています。今回のCOP10で失敗すると、「コペン―名古屋―カンクン3連敗」へという最悪の流れになるとの印象は避けられません。

 この危機感を背景に一部諸国の抵抗も限定的なものに。「事前の期待からすれば最良の文書とはいえないが、出発点になる」というアフリカ代表・ナミビアの発言が、会議の大勢を代弁しました。

 国際環境市民団体WWFのリープ事務局長は30日、「名古屋議定書は歴史的な達成」と評価。COP10は「地球の健康保全が国際政治の主要課題だとの強いメッセージを送った」と語りました。

 12年のCOP11まで議長国を務める日本。「15年までにサンゴ礁への人間による圧力を最小限にする」など、COP10の決定を率先して実施することが国際社会から求められています。 (坂口明)


名古屋議定書骨子

 一、議定書の目的は、遺伝資源の利用より生ずる利益を公正かつ公平に分配すること

 一、資源の提供は原産国か、生物多様性条約に従い遺伝資源を取得した締約国が行う

 一、利益は金銭的、非金銭的なもので、収集したサンプルの使用料、商用化に際してのライセンス料、研究開発の成果の共用などを含む

 一、遺伝資源に関連する伝統的な知識の取得に当たっては、先住民社会から事前の同意を得る

 一、ヒトや動植物の健康への脅威となる緊急事態に際しては、遺伝資源を早急に使用する必要性に配慮する

 一、締約国は遺伝資源の利用を監視し、利用の透明性を向上させるため、複数のチェック機関を設ける





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