2010年9月21日(火)「しんぶん赤旗」

列島だより

葬儀 自分らしく


 新聞の折り込み広告やテレビのコマーシャルでも増えてきました。お墓や葬儀の広告です。最近のようすについての『現代葬儀考』や『宗教のないお葬式』の著者柿田睦夫さん(ジャーナリスト)と、「大阪・やすらぎ支援の会」の北添眞和さんのリポートです。


増える直葬 背景に貧困

 「葬儀は家族葬で行いました」という死亡通知が増えています。家族葬とは、身内だけの小規模葬儀。葬儀の大型化・高額化への反省から増加の傾向にありました。

 しかし最近の「家族葬」には別の意味があります。家族葬とされるものの中に「直葬」が多く含まれていることです。直葬とは、葬儀をせずに直接火葬場に運ぶこと。炉前で身内や友人が別れを告げるだけの葬送です。これが急増しています。

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 東京のある葬儀社グループの調べでは、2009年9月から4カ月間に施行した162件中、実に80件が直葬でした。

 もともと「葬式無用」の考え方はあります。しかし、1990年代半ばまではせいぜい2〜3%程度でした。

 なぜいま急増なのか。答えは「貧困」です。葬式を「しない」のでなく、「できない」のです。

 「費用がない」だけではありません。葬式代をためてあっても、残された者の老後を考えると使うことができない。もし年金や医療の制度が整っていたら、葬儀をあきらめる人は大幅に減るだろう、といわれています。

 直葬が急増しだしたのは小泉純一郎政権のころ。格差と貧困政策は葬儀をも直撃しているのです。

 本来の意味の「家族葬」が増えている背景にも、同じ問題が横たわっていますが、「身内だけで静かに別れたい」という思いは尊重されるべきものです。

 しかし考えてほしいことがあります。もし親しい友人や仲間が死んだとき知らせてもらえなかったら、あなたはどう思うでしょう。

 だから葬儀後の適当な時期に、ことの経過を書いた手紙を故人の友人に送るというような配慮がほしい。故人が生前に、なぜ「家族葬」にしてもらうのかを書いた「あいさつ状」を用意しておく。そんな例も増えています。

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 法律上は、葬儀はしてもしなくてもよいものです。「しない」というのも見識です。しかし迷ったらした方がよいと思います。葬儀には死者を送るだけでなく、残された者が寄り集い、悲しみを分けあい、励ましあって日常の暮らしに戻るという、大切な役割があるからです。

 葬儀には宗教的儀礼のほかには何の制約もありません。歌や絵などで故人の思い出いっぱいにする葬儀も、会費制の葬儀も実際に行われています。

 大切なのは「心をこめて」です。(柿田睦夫)


大阪・やすらぎ支援の会

願いに添い 安心費用で

 「ゆりかごから墓場まで」という社会保障の理念を過去の言葉にしたくない。そんな思いで「大阪・やすらぎ支援の会」(浅山富雄理事長)を設立してから4年。葬儀や遺言、後見などをサポートするとともに、各地で「勉強会」をひらいています。

 そこでは、「精いっぱい生きて、自分らしく締めくくりたい」「家族や友人に『ありがとう』のメッセージを」などと、明るく語り合っています。葬儀を考えることは、「一日一日を大切に、どう生きぬくか」や「残される人々への思いやり」を考えることだと実感しています。

 この間、「会」は、百数十人の葬儀をお手伝い、70人余と「生前契約」を結んでいます。葬儀は、「会」の理念を理解する葬儀業者との共同作業。「故人や遺族の願いに寄り添い、安心できる費用で」を心がけています。

 余命を告げられた女性は、病院で希望を語りました。「仲間の支えで生きてこられた。その仲間にきちんとお別れをし、白やピンクの花に囲まれて眠りたい」。その希望にそって祭壇をつくり、仲間が思い出を語り、長女が「愛情と生き方の手本を残してくれた、おかあさん、ありがとう」と語りかけ、「わが母の歌」で送る葬儀もありました。

 葬儀を通して、子どもたちが、社会進歩と働く人々のためにつくした故人の生涯を理解し、「私も父、母のように生きたい」と語る、そんな場面にもよく出会います。

 いま増加している「家族葬」でも、季節の花をあしらった清楚(せいそ)な祭壇、遺影は1枚でなく思い出のスナップ、童謡が流れ、孫がおばあちゃんとの楽しかった思い出を語る…。費用は総額40万円ほどと質素ながらも心にのこる葬儀もありました。

 どう人間の尊厳をつらぬき、その時を迎えるのか。「会」は、日々とりくんでいます。(北添眞和)

 大阪・やすらぎ支援の会=電話06(6681)0879


市場争い 動き激化

 葬儀それ自体も葬儀業界も曲がり角を迎えています。

 葬儀業界はもともと地域密着型。土地の風習や喪家(そうけ)の状況に応じた葬儀が可能でした。近年、大手業者が各地に「セレモニーホール」を建て、市場争いが激化し、それが葬儀の大型化・高額化を招きました。

 そんな業界に昨年9月、流通大手のイオンが参入。3年後に、7千億円とされる市場の10%獲得をめざすと発表し、波紋を広げています。イオンが受注し、地域の特約葬儀社に施行させ、葬儀費用の15%、イオンで売った返礼品の25%などを徴収するという方式。

 街の葬儀社は大手の傘下に入るか、「安い葬式」などで生き残りをはかるかという選択を迫られました。

 イオンのセールスポイントは「全国同一企画」による「明朗会計」とイオンカードの利用。つまり葬儀のクレジット化と「パック商品」化です。

 イオンが僧侶の紹介や布施の統一料金化の動きを見せたことに宗教界が反発。全日本仏教会がイオンに「意見書」を出すという事態にもなりました。

 その一方で、地域の葬儀業者や消費者の間に、画一化・商品化する葬儀を見直す機運が高まっています。

 各地で市民グループが葬儀の勉強会を開き、さまざまな実践も試みています。そんな勉強会に共通するテーマは「自分らしさ」。そして、残される者への「思いやり」です。独居老人などのための葬儀の生前契約も始まっています。

 もともと、葬儀は地域共同体が支える行事でした。だから遺族は悲しみに浸る時間を持つこともできました。その地域共同体にかわる新しい、人々の連帯を。業者と消費者が連携した新しい葬送文化への動きも出ています。





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