2010年9月11日(土)「しんぶん赤旗」

民主党政権下初の「防衛白書」

公約破りと混迷の末に


 10日に民主党政権下で初めて刊行された「防衛白書」―。ここには、公約破りと混迷の末たどり着いた同政権の危険な安保政策がくっきりと現れています。(榎本好孝)


写真

(写真)富士総合火力演習で展示された10式戦車=8月29日、静岡県の陸上自衛隊東富士演習場

「対等」から「追従」へ

 「日米安保体制は、わが国のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎をなすものであり、地球的規模の活動における協力を行うまでに広がりを見せています。今後もこれを維持・強化していくことが極めて重要です」

 北沢俊美防衛相が「防衛白書」に寄せた巻頭言の一節です。地球規模に拡大した日米軍事同盟をさらに強化していくとの表明です。

 白書は、「日米安全保障条約締結50周年」という節を設け、「日米同盟を深化させるためのプロセスを推進する」と表明。オバマ米政権が今年、軍事・核戦略である「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)や「核態勢見直し」(NPR)を発表したのを踏まえ、日米間の安保協力を一層拡大するための協議を進めていることを明らかにしました。

 こうした白書の立場は、米軍事戦略への全面的な追従を示すものであり、民主党が政権交代を実現した昨年の総選挙マニフェストで「対等な日米同盟関係をつくるため、自主的な外交戦略を構築」すると公約していたのとは隔世の感です。

「抑止力」に固執

 しかも、民主党は「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」(同マニフェスト)としていました。

 ところが、白書は「抑止力として十分に機能する在日米軍のプレゼンスが確保されていることが必要」などと、「在日米軍の駐留の意義」を繰り返し強調しています。

 「在沖米海兵隊の意義・役割」についてもわざわざ図表付きで解説し、沖縄の海兵隊は「高い機動力と即応性を有し、さまざまな緊急事態への一次的な対処を担当」しており、「わが国およびアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与」していると強調。焦点の米海兵隊普天間基地の「移設」問題について、「抑止力を現時点で低下させることは、安全保障上の観点からできない」とし、「国外・県外への移設」を否定しました。

 「移設」先を名護市辺野古にした理由に関しては「代替の施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはない」と脅す一方、「沖縄県民の負担軽減と危険性の除去を優先したもの」と強弁。“沖縄の海兵隊は抑止力として必要”という虚構の議論に取り込まれ、負担を強いられる名護市民が沖縄県民でないかのように描くしかできなくなりました。完全な説明不能状態です。

イラク派兵を評価

 これまでの民主党の態度との関係で厳しく問われなければならないのは、それだけではありません。

 白書は、同党がかつて反対していたインド洋やイラクへの自衛隊派兵を「わが国を含む国際社会の平和と安全の維持に資する」ものだったと評価。特にイラク派兵について「米国とともに活動したことを通じて、日米の安全保障面での協力をさらに緊密かつ実効性あるものとする上でも有意義」だとし、ここでも日米同盟絶対の姿勢を鮮明にしました。

 さらに、自衛隊を海外に自由に派兵できる恒久法について「国際社会の平和と安定のため積極的な協力を行うに際し、どのような活動を行うべきかを含めさまざまな課題につき研究していく必要がある」と表明し、海外派兵の一層の促進を打ち出しています。

解釈改憲の提言も

 民主党政権は今年末、日本の軍事力の指針となる新しい「防衛計画の大綱」を策定する予定です。これに向け首相の諮問機関である「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は8月末に報告書を提出しました。

 白書はこの報告書の要約を掲載。米軍艦船の防護や米国領土に向かう弾道ミサイルの迎撃といった集団的自衛権に関する憲法解釈の再検討や、海外での他国要員の警護を可能にする憲法解釈の変更、武器禁輸原則の見直しなどを提言していることを紹介しています。

 白書が「今後、政府として、この報告書も検討材料の一つとしつつ、16大綱(=現防衛大綱)の見直しが進められる」としていることは重大であり、今後、警戒が必要です。


「事業仕分け」宣伝するが

高額兵器導入も

 白書は、民主党政権が行った防衛省関連の「事業仕分け」を宣伝。2010年度政府予算で、備品・被服の縮減などで168億円を削減することができたとしています。

 一方で白書はわざわざコラムを設け、10式戦車(10年度予算=13両計124億円)や、“ヘリ空母”と呼ばれるヘリ搭載護衛艦(同=1隻1139億円)などの高額兵器導入を大々的に宣伝しています。

 白書が指摘するように、ヘリ空母は「(自衛隊の)国際任務の本来任務化」を踏まえて導入が決まったもの。10式戦車も白書は、カナダがアフガニスタンでの市街戦の教訓から改めて戦車の導入を決めたことなどを指摘し、その意義を強調。海外での使用を想定しているかのような紹介をしています。

 憲法違反の海外派兵用兵器こそ無駄遣いの典型であり、真っ先に「事業仕分け」の対象になるべきです。





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