2010年5月21日(金)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 子どものころに熱中した流行歌が、「お富さん」です。「粋な黒塀」のわけも知らずに、畑仕事の手を休めて歌う村人に調子を合わせていました。分かる詞は、「死んだはずだよお富さん」ぐらい▼いま振り返ると、「死んだはずだよ…」になにかおもしろい物語が潜んでいると、子ども心に感じ取ったのでしょう。前進座が、その“お富さん”が主人公の歌舞伎、「切られお富」を上演しています▼河原崎國太郎が、先代の当たり役だったお富を演じています。土地の親分の愛人・お富は、かつて結ばれた浪人・与三郎と巡りあう。二人の仲を知った親分は、お富を切り刻み、殺したはずだったが…▼姉御(あねご)肌の女性の、“悪婆(あくば)もの”とよばれる演目です。男どもが熱をあげる愛らしさ。ただ一人の男を恋い慕ういちずさ。好きな男のために、ゆすり・たかりも平気でやってのける肝っ玉。國太郎さん、魅力全開で舞台を引っ張ります▼さて今回は、7代目・嵐芳三郎の襲名おひろめ公演です。与三郎役です。欲と悪の渦巻く男世界で、ひとり志をとげようとひたむきに生きる与三郎。芳三郎さんがりりしく演じ、当たり役になりそうです▼ところで、「切られお富」は歌の「お富さん」の話とは違います。歌のもとは、やはり歌舞伎で登場人物の名も同じ、通称「切られ与三」です。親分に切られるのは、お富と恋仲の与三郎の方。お互い“死んだはず”でした。与三郎はやくざな町人です。芳三郎さん、こちらの与三郎はどう演じるでしょう。





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