2010年5月4日(火)「しんぶん赤旗」
焦点 フォーカス
韓国哨戒艦沈没事件
進まぬ原因究明
強硬論高まる 多数は冷静対応求める
韓国軍の哨戒艦「天安」が3月下旬に黄海で沈没した事件が、朝鮮半島情勢を緊迫させています。韓国政府は、北朝鮮が攻撃した疑いが強いと見て、原因究明を急いでいます。北朝鮮の関与を裏付ける証拠は見つかっていませんが、保守系メディアは、「北朝鮮に報復を」と主張。政府・与党内でも強硬論が高まっています。(中村圭吾)
同艦は3月26日夜、韓国側が海の軍事境界線と位置づける北方限界線(NLL)近くで沈没。乗員104人中、46人が死亡しました。犠牲者の多くは10〜20代の青年で、韓国社会に大きな衝撃を与えました。
韓国政府は、事件直後から、北朝鮮の攻撃の可能性に重点を置き、調査を進めてきました。
「水中での爆発」
金泰栄(キム・テヨン)国防相は、機雷や魚雷による攻撃の可能性が高いと繰り返し発言。軍と民間専門家、米軍調査チームからなる合同調査団は4月25日、船体付近での「水中での爆発」が原因との調査結果を発表しました。
爆発は船体に接触して起こったものでなく、水中爆発の衝撃による圧力で、船体が切断されたといいます。
北朝鮮は事件への関与を否定。同月17日には、韓国側が「原因を究明できなくなり、北朝鮮関係説を意図的に流している」と非難しました。
「重大決定する」
韓国の政界では、与党・ハンナラ党の鄭夢準(チョン・モンジュン)代表が同月16日に、「北朝鮮の攻撃が確認できれば、重大決定をする」と述べるなど、強硬論が台頭。金盛賛(キム・ソンチャン)海軍参謀総長は、同月29日に行われた犠牲者の告別式で「苦痛を与えた勢力を最後まで追及し、必ずやこれ以上に大きな代価を払わせる」と述べました。
保守色の強い三大紙も、社説で「自らの生存と国家の自尊を守るために、決然と成敗に踏み出すべきだ」(同月8日、東亜日報)と主張。軍事報復をあおる報道が目立ちます。
これに対し、野党陣営は、「証拠もない中で、政府が先走るのは危険だ」などと指摘。地方選挙が1カ月後に迫る中、与党陣営が、事件を利用しているのではないか、という懸念も出されています。
世論は報復反対
国民の多くは、冷静に対応すべきだという考え。同月12〜13日に実施された世論調査では、「戦争に発展しかねない軍事行動を自制すべきだ」という回答が80%に達し、「軍事行動で報復すべき」と考える人は17%にとどまりました。
6割の人が政府の対応は誤っていると判断。今後の対北朝鮮政策についても、南北の平和を重視すべきという意見が半数を超えました。