2010年4月22日(木)「しんぶん赤旗」

命守る基準 捨てる気?

鳩山政権 「地域主権改革」の名で規制緩和


 鳩山政権が提出した「地域主権改革」一括法案が審議中です。与党は27日にも参院での採決を狙っており、重大な局面です。同法案は、保育所をはじめとした福祉施設の設備・運営の国の最低基準をなくすことなどがおもな中身。「地域主権」という名で、社会保障・公共サービスへの国の責任を投げ捨て、大規模な規制緩和路線を敷こうとしています。


保育・福祉を市場任せに

 「地域主権改革」一括法案は、「義務付け・枠付けの見直し」という名で、国が基準を定める50項目について、地方自治体の条例にゆだねることを盛り込んでいます。

 最大のターゲットが、福祉施設の設備・運営基準、なかでも保育所の最低基準です。子ども1人当たりの保育室の面積・職員数、耐火基準、調理室や園庭を置くことなど、子どもの安全と発達のために国が定めた最低限度の基準を引き下げようというのです。

詰め込みが進む

グラフ

 今回、国は、職員資格・人数、居室面積、人権にかかわるもの以外、原則として国の基準を撤廃し、基準引き下げを可能にします。

 待機児童の多い自治体では面積基準についても引き下げを認めます。保育所ではすでに、「定員弾力化」の名で定員を超えた子どもの詰め込みがすすみ、死亡事故が急増しています(グラフ)。最低基準が歯止めでしたが、その歯止めがなくなります。

 「国の縛りをなくし、地方の独自性を生かす」というのが基準撤廃のふれ込みです。しかし、最低基準はもともと、基準を超える積極的な施策をとるよう自治体に求めており、独自性を縛るものではありません。

 保育分野の「規制緩和」を自公政権時代から求めてきたのは、保育でビジネスチャンス拡大を狙う財界です。自公政権下ですすめられた「構造改革」路線で、2000年に営利企業の保育事業への参入が認められ、参入しやすくするための「規制緩和」が、規制改革会議などで執拗(しつよう)に狙われてきました。さらに保育制度そのものについても、公的な責任の下で行われてきたのを市場にゆだねる方向で改悪の検討をすすめてきました。

 鳩山政権は、この方向をそっくり引き継いだばかりか、自公政権さえできなかった最低基準の原則撤廃にまで踏み込み、避難経路や耐火基準という子どもの命に直結する基準さえ引き下げを可能にしようとしています。

 村山祐一帝京大教授(保育学)は「幼い子どもは主張できない。国には、きちんと基準を守らせる責任がある」と批判します。

地方自治壊す道州制狙う

 「義務付け・枠付け」とは、ナショナルミニマム(国民生活の最低限保障)の確立を求める国民のたたかいに押されて、福祉や教育などの水準を不十分ながらも保障するために設けられたものが大半を占めています。

 この基準をなくすことは国の責任を放棄するものであり、地方に対する財政負担の削減につながるものです。

 不当な地方支配をなくすのは当然ですが、だからといって国の責任や財源保障制度そのものを崩してよいということにはなりません。

 鳩山内閣は、国の財源保障制度である補助金を「一括交付金化」して、地方への財政負担の削減を検討しています。これでは自治体が独自の施策を充実させ、地方自治を発展させるどころか、福祉、教育などの最低水準を確保することも難しくなり、地域格差をいっそう広げることになりかねません。

 こうした指摘に対し原口一博総務相は「その通り。間違ったリーダーを選べばそのツケは選んだ人に来るのは当たり前」(地域戦略会議)とのべ、国の責任を投げ捨てる姿勢をあらわにしています。

 「義務付け・枠付けの見直し」は、自公政権時代の地方分権改革推進委員会が打ち出した勧告をそのまま盛り込んだものです。国の責任をいっそう投げ捨て、地方切り捨てをすすめるもので、自治体と住民がノーを突きつけた「構造改革」路線そのものです。

大企業が求める

 こうした自治体への「権限移譲」は、合併など規模拡大を市町村に迫るもので、その先には地方自治破壊の「道州制」がねらわれています。原口総務相は審議のなかで、規模の小さな自治体では受け皿にならないことを認め、「地域が自ら選択した道州制を視野に考えていきたい」と語っています。

 もともと「地方分権」の検討がはじまった背景には、道州制など国家のあり方を大再編するねらいがあります。国の仕事を外交や貿易、軍事、司法に限定し、福祉や教育は地方に押し付ける。「地方分権」の名で国の財源保障の責任を取り払い、「小さな政府」にしていく。地方に福祉などを「自助・自立」でやらせるために、自治体の規模を大きくし、いっそうの市町村合併をすすめる―こうして道州制につなげることがねらわれています。

 道州制と市町村再編は財界・大企業が求めてきたもので、税金投入を大企業応援に振り向けさせるなど大企業にとって都合のよいものです。自治体行政を住民から遠ざけ、地方のいっそうの疲弊と地方自治の形骸(けいがい)化をもたらすものです。

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