2010年3月23日(火)「しんぶん赤旗」

米医療保険 じわり前進

下院で法案可決

国民皆保険見送りに批判も


 今回の医療保険改革は、米国にとって1965年の高齢者・低所得者向け公的保険導入以来の大きな制度改革となります。(ワシントン=小林俊哉)


グラフ

 90年代にクリントン政権が提案した国民皆保険制度の導入が挫折して以来、すべての国民に開かれた医療保険制度の導入は、国民的課題となっていました。オバマ政権は、政界に強い影響力をもつ保険業界の抵抗をしのいで、皆保険に向け、一定の前進をはかったといえます。

 しかし全国民向けの公的医療保険制度の導入を見送ったために、皆保険制度の導入を求めてきた各層からは批判も出ています。米国の貧困な医療の実態を告発した映画「シッコ」のマイケル・ムーア監督は、今回の法案を「改革ではない。おふざけだ」(17日、米CNNテレビ)と痛烈に批判します。

 それでも、保険が拒否されたり、加入できないための「医療破産」などが社会問題化しているだけに、保険業界の横暴を規制し、3200万人に新たに保険加入の道が開かれたことには意義があります。

 今回の法案で、雇用保険に頼っている失業者は低所得者向け医療補助(メディケイド)の拡大で救済されます。会社が医療保険を提供しないために民間の高額保険に加入せざるをえない層は、新設の「保険取引所」で安い保険の購入が可能となります(実施は14年から)。従業員に医療保険を提供できない小規模企業所有者には、減税措置が行われます。

 無保険者の完全解消と皆保険への前進、他の先進国と比べて異常に高い医療費の無駄の削減などが、引き続く課題となります。

 一方、保険業界や野党・共和党は、「医療の社会主義化」などとして、反対の声を強めています。

 21日も、米議会周辺には法案反対を叫ぶ人たちが押しかけました。共和党内には、今年11月の中間選挙で勝利し、議会で多数を制した場合、今回成立する法案を廃止するとの主張が台頭しています。今秋の中間選挙は、医療改革への国民投票の性格を帯びることになります。


 米国の医療保険制度 日本のような国民皆保険制度を導入しておらず、公的保険は高齢者や障害者向け(メディケア)、低所得者向け(メディケイド)などに限定。国民の6割以上が勤務先企業提供などの民間保険に加入しています。このため失業や転職で保険を失う人が絶えず、約7人に1人が無保険者。また、医療費の高騰や保険大手による市場独占などで保険料が急激に上昇、十分な保険を受けられない人や保険料負担増による自己破産も増加しています。



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