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2009年9月23日(水)「しんぶん赤旗」

裁判員裁判 本格化

司法に関心「裁く重さ」

取り調べ可視化は不可欠


 国民が刑事裁判に参加する裁判員制度が始まって1カ月半。全国の地方裁判所で本格的に開催され、毎日2〜5地裁で審理や判決が行われるというペースで、多くの事件が裁かれています。浮かび上がった成果と課題をみると―。


 「お上が行う裁判に市民の声が反映するようになる」「社会についてよい勉強ができた」。8月3日からの全国初の裁判員裁判にたずさわった裁判員経験者は、裁判終了後の記者会見で、制度の積極的な側面をこのように語りました。

傍聴希望1000人

 裁判には傍聴希望者が連日1000人以上つめかけるなど国民の関心の高さを示しました。裁判を身近に感じ、刑罰にも無関心ではいられなくなったという「社会的」効果についても、各地の裁判員経験者が共通してのべていることです。

 一方、多くの裁判員が「人を裁く」ことの重圧を感じています。

 和歌山地裁では14日から裁判員裁判で初の強盗殺人事件の裁判がありました。法定刑は「死刑または無期懲役」という重罪です。16日の判決は検察の求刑通り、裁判員裁判としては初の無期懲役でした。

 判決後の記者会見で裁判員経験者は「正直自信はない。みんなが協議してこういう結果になった」とのべ、裁判中は「夜もよく眠れなかった」という人もいました。

 今後、死刑が求刑される事件が取り扱われることは確実で、その場合の裁判員の負担は格段に高まります。精神的なケアの方策などとともに、死刑制度そのものの是非をめぐる議論にもつながっていくことが考えられます。

被害者の保護

 青森地裁で2日から開かれた裁判は、初めて性犯罪を裁くものでした。

 被害者のプライバシーの保護が焦点。居住地や交友範囲などで被害者と近しい人が裁判員に選任されることがないよう工夫がされました。裁判のなかでも、被害者が映像を通じて陳述する方式がとられました。

 それでも、悪質さを強調するために犯行の様子が詳細に再現されるなど、被害者保護の点で疑問符のつく場面もあり、今後の見直しでの論点となりそうです。

社会的な対応

 9日には介護疲れに絡む殺人未遂(山口地裁)、父親への殺人未遂(神戸地裁)で相次いで初の執行猶予判決が出ました。

 外国人が被告となった初の裁判(さいたま地裁)では、二つの強盗事件を起こした被告(20)=事件当時19歳=にたいし、判決は5年の実刑でした。同種の事件でのいわゆる「量刑相場」からすれば、かなり軽い判決です。

 裁判員は被告のきわめて不遇な成育歴に注目し、裁判後の記者会見では「若年層の在日外国人が日本社会になじめるようなケアの整備が必要」と、社会的な対応を求める発言もありました。

否認事件でも

 これまでの裁判では、被告が犯行を否認した事件はありません。

 14日からの千葉地裁の事件では、検察側が強盗致傷罪、弁護側は暴行の程度が軽いとして窃盗・傷害罪を主張し、初めて適用する罪名を争うことになりました。

 有罪か無罪かを正面から争う事件として、さいたま地裁で公判前手続きが行われた強盗傷害事件があります。公判日程は11月30日から12月11日までの2週にわたり、休廷日や休日をはさみ8日間の日程を組みました。

 起訴事実を争う事件では、これまでの2〜4日という短期間の連日審理では間に合わないケースも増えそうです。

 とくに自白の任意性などを争う裁判では長期化は避けられません。裁判員に過度の負担を与えず、冤罪(えんざい)を起こさないためには、取り調べの全過程の録画による「可視化」導入など、制度的な改善が不可欠です。

 (竹腰将弘)


裁判員裁判 主な動き

 8月3日 全国初の裁判員裁判が東京地裁で始まる(6日までの4日間)

   10日 全国2例目の裁判員裁判(さいたま地裁、12日まで)

 9月2日 全国3例目、初めて性犯罪事件を裁く裁判(青森地裁、4日まで)

   8日 外国人が被告となった初の裁判(さいたま地裁、11日まで)

   9日 裁判員裁判で初の執行猶予判決(神戸地裁、山口地裁、いずれも家庭内の事件)

   14日 裁判員裁判で初の強盗殺人事件の裁判。判決は初の無期懲役(和歌山地裁、16日まで)

    同 強盗致傷罪か、窃盗・傷害罪か、適用する罪名を争う初めての裁判(千葉地裁、18日まで)


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