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2009年9月14日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

残したい この場所


 居心地がよく、楽しく交流できる場がある地域で住みつづけたいとは、誰もが望むことでしょう。全国各地にあるこうした場づくりの努力のなかから、東京と高知の事例を紹介します。


無料入浴で高齢者交流

高知市

 昼すぎ、高知市旭にある社会教育・福祉施設「木村会館」にタオルやせっけんを持ったお年寄りが集まってきます。市の入浴サービスを利用する人たちです。

 「いや〜、ここが利用できるまでは、お風呂を探してあっちこっち行っていました。しんどくて、入らない日が続くこともありましたが、ここができて助かっています」。男性(74)はこう話します。

存続へ運動

 木村会館の入浴サービスは、現在週4回(火木金土)実施しています。市内に住む60歳以上で、入浴に困っている人ならだれでも無料で利用できます。正午から午後2時まで女性、2時から4時まで男性が利用します。現在、159人が利用登録しています。

 旭地域にあった最後の公衆浴場が閉鎖したのは04年12月。旭地区は戦争の空襲を受けなかったことから、古い家屋があり風呂のない民家やアパートも数多くあります。それまで公衆浴場を利用していた人はたちまち困りました。もらい湯をする人、病院や福祉施設に風呂を借りにくる人、たらい湯でしのぐ人などがでました。近くの鏡川で汗を流す人もいました。

 窮状を聞いた医療関係者や町内会長らで「旭に公衆浴場を存続させる会」を立ち上げました。これには、看護学生など若い人も積極的に協力し、6200人を超える署名を集めました。署名をもとにした請願が市議会で全会一致で採択されたことから、06年5月から木村会館の浴場を利用した無料入浴サービスが始まりました。現在、存続させる会が市から運営を委託されています。

浴場は減少

 利用者の最高齢、96歳の男性は、少し耳が遠いですが、天気の良い日は電動式自転車で来ます。「最初から利用している。家でじっとしているより気が晴れるので、ありがたいことですよ」と語ります。

 浴槽が狭いので、一度に入れるのは2〜3人。待ち時間で知り合いとの会話も楽しい時間です。

 担当する市元気いきがい課は入浴サービスについて「入浴は健康面でも大事だし、お年寄りの交流の場になっている」と話します。

 入浴中の事故を防ぐために入浴前の血圧測定を呼びかけるなど、細やかな気配りもしています。

 存続させる会の五藤国士会長は「毎回25〜30人が利用しています。お年寄りの入浴と、交流の場としても長く続けていきたい」と語ります。

 84年に51軒あった高知市の公衆浴場は、95年には26軒になり、現在は10軒にまで減っています。入浴は生活に欠かせないものだけに、旭地区の取り組みは他の地域からも注目されています。(高知・窪田和教)


子ども喜ぶ「小さな森」

東京・世田谷

 ジージー、ミンミンとセミの音が響く8月28日の朝、「小さな森」に親子連れがつぎつぎとやってきました。

 「セミのオスとメスのちがいは、おしりの形で見分けるんだよ」という説明を聞きながら、興味津々の子ども達は、手にしたセミに見入ります。

 東京都世田谷区、国分寺崖線の斜面樹林地にある清水雪子さん宅の庭でのことです。

池や川まで

 木の間隠れに日がこぼれ、奥の池にいたサワガニは、ちょうど脱皮中でした。池のほうから、「あっ、水がわいてる。川が流れてる」と元気な男の子の声が聞こえてきます。

 「こんなきれいな緑のドングリがとれるの」という男の子に、「まだ熟してないんだな」と説明する青年。「おっきなカブトムシがいた」と喜ぶ男の子に、「すごいすごい」とおとなたち。清水さんは「ことしはカブトムシがこないって、きのう話してたのに」。「すごいよ、おにいちゃん」「ラッキータイム」と声をかけるのは、お母さんでしょうか。

 「小さな森」は4年前から民有地の自然保存を手助けする仕組みで、区政と連携して、財団法人「世田谷トラストまちづくり」が担当しています。季節ごと年に数回の開放日には、交流の場となり、自然を観察し、環境問題を考える機会を提供します。いま区内に6カ所あり、そのすべてでボランティア活動をしているトラスト会員の内田布美子さんによると、清水さんのところに一番自然の原型が残されています。

再開発強行

 国分寺崖線は、多摩川沿いに残された、かけがえのない水と緑の「景観基本軸」です。清水さん宅の「小さな森」には何年か前まで、タヌキの親子連れが出没したこともあります。しかし、もう姿を見せません。シラサギが飛来していたこともあります。しかし、もうあらわれません。小鳥はほとんどこなくなり、カエルも姿を消しました。湧水(ゆうすい)も減ってきました。

 周辺で宅地開発、マンション建設が進み、貴重な緑が削られてきました。清水さん宅と多摩川の間の二子玉川東地区には、都内最大規模の民間再開発が強行され、最高150メートルの超高層マンション群が建ちあがってきました。

 自然と動植物の生態系に影響しないわけはありません。住環境とコミュニティーも激変し、いくつもの住民運動が起きています。近隣には「環境破壊の再開発ストップ」「二子玉川再開発に700億円の税金投入反対」の旗が立ち並びます。

 「都会でも、自分たちの足元の緑を守って、小さな動物がいっぱい生きているまちづくりを」と、清水さんは「小さな森」を4年間続けてきました。生態系と環境全体を守ることにつなげたい―との思いからです。(志村徹麿)


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