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2009年9月7日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

湿地 埋め立ての危機


 三浦半島の南部(神奈川県三浦市三戸)にある湿地が埋め立ての危機にさらされています。ホタルが乱舞する湿地保全の先頭に立ったのは大学生ら若者たち。事業主の京浜急行電鉄は強行の構えで、今ヤマ場を迎えています。


神奈川県三浦市三戸の北川湿地

多様な生き物の楽園

三浦・三戸自然環境保全連絡会事務局 天白牧夫(23)

地図

 三浦市初声町の三戸地区に、「北川」と呼ばれる川がつくりだす湿地があります。

 高度経済成長以前の三浦半島は、三浦丘陵と台地とが織りなす谷戸田が多数存在し、豊かな農村環境が広がっていました。首都圏に近いこともあり、その後急激に開発が進み、現在里山的景観を残した地域はごく限られています。北川の湿地は、現在に至るまで自然が残っている数少ない谷戸であるのみならず、神奈川県内最大規模の低地性湿地となっています。

 北川湿地は、神奈川県で2カ所しかないメダカの自生地であり、サラサヤンマ、シマゲンゴロウ、ニホンアカガエル、チャイロカワモズクなど、レッドデータに挙げられる貴重な生物の生息場所です。

 また、大規模なハンゲショウ群落は、今日の首都圏ではたいへん貴重です。夏には、ゲンジボタルやヘイケボタルの乱舞が見られ、斜面林にはキンラン、エビネ、マヤラン、ナギラン、クロムヨウランなど貴重なランのなかまも多く見られます。少なくとも96種もの貴重種が生息していることが確認されています。

 このように、北川湿地は三浦半島の豊かな自然の中核となる重要な湿地だと考えられます。ただ、入り組んだ地形と生い茂る斜面林に阻まれ、これまで人々にあまり気づかれずに来たのです。里山の原風景のような、穏やかな時間が谷戸の中を包み込んでいます。この緑の濃い北川の湿地が、今まさに埋め立てられる寸前なのです。

埋め立て事業概要

 埋め立ては、北川の谷約25ヘクタールに残土処分場を建設しようというものです。容積は218万立方メートルにもなります。対象区域は、昭和40年代から土地利用のあり方を検討されてきた「三浦市三戸・小網代地区(160ヘクタール)」の中に位置します。

 温暖な気候と相模湾を望む風光明美な土地柄、そして三浦半島南部の玄関となる三崎口駅から近いことから、真っ先に開発される条件をそろえているとはいえ、生物の多様性や環境保全についての認識が高まりつつある昨今、これだけの規模の自然破壊が進められつつある現実にぼうぜんとします。

 保全を後押しするかのように、4月に提示された神奈川県の審査書は、豊かな生態系の大部分を喪失することとなるため、実施区域のみならず周辺地域の植物や動物の生育および生息環境などに影響を及ぼすことが懸念される、というものでした。

保全活用にむけて

 もし宅地造成をするにしても建てれば売れる時代ではありません。地域や事業者自身のためにも当然見直されるべきです。環境志向が急激に高まりつつある現代、それをビジネスチャンスとして地域振興に役立てましょう。私たちは、北川湿地を地域のグリーンツーリズムの拠点にする「エコパーク構想」を提案します。自然を満喫するために大勢の観光客が訪れる時代なのですから…。


若者が声あげる“時代に逆行”

 駅から歩いて10分。三浦・三戸自然環境保全連絡会の大学生らの案内で、谷あいの湿地に降りたつと、足をとられて立ち往生。やっと足をぬくと、「あっ、これはイタチの足跡、こっちは野ネズミだ」「あのトビと一緒にいるノスリはこのネズミをエサにしています」と説明があります。人知れず存在したことが幸いし、奇跡的に里山の自然が手付かずで残り、希少な動植物が生息します。

いつ埋め立ててもおかしくない状況

 この北川湿地を京急が7年半にわたって埋め立てるというのです。東京ドーム1・8個分の大量土砂です。手続き上、いつ埋め立てが始まってもおかしくない状況です。

 しかし、過去に土地利用計画を決め、県も土砂搬入を認めている(7月)とはいえ、そもそもの神奈川県の地域影響評価書(1990年)は「骨格となる緑」として、湿地をともなう幅広い長大な谷戸を保存すべきだとしています。

 保全連絡会の横山一郎代表は「昭和の時代の開発計画を21世紀になって実行するなんてひどい」と語ります。

 周辺の三浦市民は地権者の京急に遠慮して表向き反対しにくい空気はありますが徐々に変化も。横山代表らの署名の訴えに―

 「宅地にする? 環境がよくて越してきたのに、緑をつぶしたら東京に帰るしかない」

 「森のミネラルが海を豊かにすると漁民が森に木を植える時代。埋め立ては時代錯誤」の声もあがり、訪問先の庭先で環境論議が始まりました。

国内だけでなく国際的批判あびる

 保全の運動は昨年秋から。三浦半島をフィールドに調査、研究する若者たちが声をあげました。いまは全国、県、地域レベルの自然保護団体、NGO、研究者に広がっています。ことし2月、3月、5月、7月と立て続けにシンポジウムを開くという、異例のテンポでアピール。9月27日にも計画しています。

 7月議会でこの問題を取り上げた日本共産党の石橋むつみ三浦市議は「若い世代が三浦半島の生態系を学問のテーマにし、学びながら活動する姿はすばらしい。真剣な訴えが実るよう私たちもがんばりたい」と語ります。

 2010年は国連が「国際生物多様性年」と定めているうえ、生物多様性条約第10回締約国会議が名古屋市で開かれ、NGOや国連、政府関係者ら大勢が集います。横山代表は「そんなときに湿地を残土で埋めることがあれば、国内だけでなく国際的批判をあびることは免れない」と話します。


 谷戸 谷津、谷地とも呼ばれる丘陵地の谷間の低湿地帯。小川の源流域で水田にされることも多い。多くの動植物が生息する生物多様性の宝庫としてクローズアップされています。



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