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2009年8月31日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

自然を生かし地域おこし


 全国各地で自然や環境を活(い)かした地域振興、地域づくりのとりくみが進められています。家族連れや若者、ツアー客にも好評です。豊かな自然環境を守り、元気な地域、観光振興にとりくむ活動を愛媛県と栃木県から報告します。


農業再生、移住者もふえ

愛媛・内子町

地図

 江戸時代からの町並みが残る愛媛県内子町。山も川も美しい、この町では、農産物や町の文化、景観といった地域の資源を活かした住民、自治体共同の農業振興、地域づくりが取り組まれています。

 内子町は人口1万9300人余。果樹や野菜の生産が盛んですが、高齢化、後継者難、耕作放棄地の増加、イノシシ被害、農産物価格の低迷で農業は厳しい状況です。林業は木材を出荷しても採算割れで、放置林が増えています。

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 こうした現状を話し合い、地域と農業の再生をめざす農業シンポジウムが7月に町内で開かれました。主催は内子町、愛媛たいき農協、農民組合、えひめ中央農協、町役場労組、森林組合、食健連などで構成する実行委員会。稲本隆壽町長、農協、生産者代表とともに、日本共産党の有坂哲夫農漁民局長もパネリストとして参加しました。

 町にシンポの開催を働きかけた内子町農民組合の上田輝国組合長(64)は、「町や農協、生産者、消費者団体が集まり、共産党も参加した農業シンポは全国でもめずらしい試みです。地産地消や循環型の地域づくりについて話し合われ、住民に希望を与えたと思う」といいます。

 上田さんは、同町の石畳地区で果樹と野菜を栽培しています。地区の住民は、農林業の衰退で人口が減少する石畳をなんとかしようと「石畳を思う会」を立ち上げ、麓川(ふもとがわ)に3基の水車小屋を復元。秋には地元の食材や伝統食を供して楽しむ水車祭りを開いてきました。

 山と川、棚田、集落の景観を一体として守る「村並み保存運動」は「第1回美の里づくりコンクール農林水産大臣賞」(2005年)を受賞。都会からの移住者も増えています。「子どものアトピーが治ったと喜ぶ人もいます」という上田さん。

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 15年前、家族と大阪から長田地区に移住し、自然農法と有機農業の野菜栽培、ニワトリの平飼いをしている中谷信弘さん(66)は、自宅敷地内に農業体験館を開設。就農希望者に農業体験と技術研修をしています。

 「移住者の中には、いろんな専門家がいて地域が活性化しています。長田地区では、この2年間で30代を中心に6家族、25人の住民が増えました。集落に子どもの声が聞こえるのはいいですね」と中谷さんはうれしそうでした。

 町では農協、商工会など24団体で「うちこ移住促進会議」を設立。移住者の住居や農地さがし、移住や農業の相談に乗っていますが、紹介する物件が少ないのが悩みだといいます。

 内子町にはグリーンツーリズムの宿泊施設が11あり、農業体験もできるところもあります。農家民宿「ログ立山」を経営する山本企幸さん(66)は、企業組合内子ツーリズムの代表理事。同組合では町の協力で国の「どぶろく特区」の認定を受け、どぶろくを製造、販売しています。

 「町は私たちの運動を支援してくれた。農家民宿と、どぶろくが町おこしの一助になればうれしい。この秋には、もっとうまいどぶろくをつくるぜ」といいました。(愛媛県大洲市在住・宮本敦志)


農山村再生の方向示す

 農業シンポでコーディネーターを務めた愛媛大学農学部特命教授の村田武さんの話 今日の農山村の疲弊、荒廃は国の農林業政策の無策、失政にあります。小泉内閣の「構造改革」は、農山村の荒廃に拍車をかけ、地域格差、貧困をはげしくしました。

 内子町における住民と自治体の町並み・村並み保存、グリーンツーリズム、人材・地域づくりの活動は、農山村再生のひとつの方向性を示すもので注目されます。


豊かな自然が観光資源

栃木・奥日光

地図

 栃木県日光市の奥日光は、豊かな自然の残る地域。住民と行政による地域の自然、資源を活かし、観光振興のとりくみが進められています。首都圏に近く、多くの家族連れ・ツアー客が訪れ、小学生の林間学校、修学旅行のメッカです。

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 奥日光の湖と湿原は、2005年にラムサール条約に登録されました。県立日光自然博物館の担当者は、春と夏のイベントや一般の人も含めて、「年間2万人を超すツアー客を案内する」といいます。湿原や山岳、森林の景観などは地域の大切な資源です。

 冬にも、スノーシュー体験、動物の痕跡観察も計画。最近では、奥日光の良さが理解され、ツアーへの参加者が増えています。

 千手ケ浜に住み、湯ノ湖畔で旅館を経営する伊藤誠さん(59)は「宿泊する小学生や先生に戦場ケ原の魅力やキャンプファイアのあり方を考えてもらっています。一般客には自然の魅力を話し、体験ウオークを案内します」と話します。一方で、温暖化などによるシカの食害や戦場ケ原の乾燥化が課題ともいいます。

 観光客にも奥日光の自然や清涼な水を知ってもらおうと、旅館の若女将(おかみ)さんが「奥日光水の会」を結成(1993年)しました。

 毎年、湯滝、竜頭滝、中禅寺湖で水質調査を実施。また、廃油せっけんづくり、自然博物館前などで観光客に環境保全を呼びかける「ガレージセール」を地道に続けています。「日本の水をきれいにする会」から表彰をうけました。

 湯元温泉の若女将、福田留美子さん(56)は「利き酒の会をおこない、この地域だけしか流通しない地酒『奥日光貴婦人』をつくり、温泉客には人気です。また、連泊のお客さんには、ノークリーニングサービスの協力をお願いをしています」と熱く語ります。

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 日光市議会も昨年9月、「ラムサール条約登録地及び周辺環境調査特別委員会」を設置。環境保全と地域振興のため活発に活動しています。

 同委員会の副委員長を務める日本共産党の福田悦子議員(59)は、「観光、漁業、自治会、ボランティアなどのみなさんの湖を守りたいとの願いにこたえたいと思います。子どもたちにもふるさとの豊かな環境、そこで育つ生命の大切さを伝えたい」と話しています。

 奥日光で50年あまり、湖の環境変化を見守ってきたパークボランティアの赤坂毅(たけし)さん(71)。

 「観光で発展してきた奥日光は正念場を迎えている。清水にすむヒメマスが生息できる湖をまもりたい。行政は住民の要望する湯元からの下水道パイプライン化を実現に近づけてほしい。いま、訪れている小学生たちが、おとなになってまた来たくなる奥日光にしたい」と夢を語ります。(小高平男)


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