2009年7月2日(木)「しんぶん赤旗」

貧困ビジネス 劣悪「宿泊所」

「派遣切り」の弱みにつけこむ

生活保護費“むしり取る”

生存権守る施設を


 「派遣切り」で仕事も住居も奪われた人の弱みにつけこむ「貧困ビジネス」が、社会問題になっています。生活保護費までむしり取る「無料低額宿泊所」の実態を追いました。(田代正則)


 広志さん(34)=仮名=は昨年11月、神奈川県で「派遣切り」にあい、寮を追い出されました。ホームレスをして見つけた土木作業などの仕事も、路上生活で衰弱した体ではついていけず、再びホームレスになりました。

 「住居がなければ、まともな仕事につけない」と思い、3月、生活保護を申請。NPO(民間非営利団体)法人が運営する「宿泊所」に入所させられましたが、憲法が保障する生存権とは無縁の実態でした。

 無料低額宿泊所は社会福祉法にもとづき生活困窮者に宿所の提供や就労支援などを行う施設。設置者はNPO法人などが多く、利用者の多くは生活保護受給者です。

床もボロボロ

 広志さんが入った施設は壁も床もボロボロの2階建て木造アパート。部屋を1枚のベニヤ板で仕切っただけの3畳が居住スペース。「電灯もつかず、テレビもなし。クーラーもないので夏にはとても住めません」

 入居者40人に対しプレハブの簡易シャワーが2個だけ。食事は、ごはんとレトルトのハンバーグなどです。

 それでも保護費の月額約12万6千円から、家賃や食費、運営費など合わせて9万4千円も引かれるため残りは約3万2千円。「掃除や炊事も入居者自身の当番です。こんなに費用がかかるとは思えません」(広志さん)

 さらに「トラブルの保険」と称して「預かり金」1万円を引かれ、職探しに不可欠の携帯電話料金を払えば1万円も残りません。

 節約のため外出中の食事を我慢し、電車に乗らずハローワークや面接先まで片道一時間以上歩くこともたびたび。月の半ばで、財布に残りわずか27円という月もありました。

 しかも、生活保護費の受給日には、福祉事務所に施設職員が同行。窓口で受け取った保護費は、すぐに施設職員のかばんに封筒ごと入れられ、入所費用を差し引いてから残額が渡されました。

 施設の説明書には、「会社紹介」など就職あっせんするとありますが、いっさい支援はありません。

 「せっかくの保護費がほとんどむしりとられ、資格取得や就職活動も満足にできない。同じ駅周辺なら3万円で6畳風呂付きのアパートに入れ、もっと安く生活できるのに…」と肩を落とします。

福祉事務所は

 市の福祉事務所は、広志さんが「すぐにアパートに入居させてほしい」と申し出ても、「生保の受給手続きが終わらないと入居費用を出せない」といって、「一時的」だという約束で入所させました。受給決定後も「仕事が見つかってから」と先延ばしし、その次は「仕事をしてお金がたまったら自分のお金でアパートに引っ越して」といって施設に押し込めてきました。

 広志さんが生活保護を申請した市には公的な緊急宿泊施設がなく、民間3法人9施設に任されています。

 市の担当者は「届け出があり、ガイドラインの設置基準を満たしていれば紹介している」としています。しかし、そのガイドラインは、居住スペースは5平方メートルあればよいとするなど劣悪なものです。照明設備の不備などはガイドラインに照らしても違反です。

 現在、届け出された民間の宿泊所は1万6千人分以上といわれ、無届けの施設も広がっています。

 「無料低額宿泊所と呼ばれていても、実態は福祉の理念からかけ離れた施設が多い。私たちのところにも、施設入所者からの相談が年間30件以上あります」と語るのは、埼玉県で生活相談・支援活動をしているNPO法人「ほっとポット」代表理事の藤田孝典さん(社会福祉士)。

 「本来なら、行政が宿所提供施設の整備や公営住宅の開放などで責任をもつべきなのに、民間に丸投げをしているのは問題です。背景には、国が社会保障予算を削減してきたことがあります。職と同時に住居を失う事態に陥らないためには、雇用保険や公営住宅の建設などでセーフティーネットをつくっていくことが必要です」



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