2009年5月23日(土)「しんぶん赤旗」

主張

裁判権放棄

これでも「密約」ないと言うか


 在日米軍人らが起こした刑法犯の処理について、日本の検察庁が多くを不起訴処分にしていたことが、日本平和委員会が情報公開請求で入手した法務省の資料で明らかになりました。

 二〇〇一―〇八年に公務外で罪を犯した米軍人ら三千八百二十九人のうち、約83%にあたる三千百八十四人が不起訴処分となり、多くの米軍人らが処罰を免れています。日本人の場合不起訴率はほぼ50%程度であり、米軍人らの不起訴率の高さは異常です。「著しく重要な事件」を除き日本は裁判権を放棄するとの「日米密約」がいまも生きている証拠です。

異常に高い不起訴率

 法務省が公開した「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」(全国検察庁総計)によって、罪を犯した米軍人らの処分の全容がはじめて明るみにでました。米軍地位協定の米軍優遇の刑事裁判権を追及する上でも貴重な資料です。

 殺人と強盗・同致死傷罪の凶悪犯罪での起訴率は八年間で71%です。当然の数字であって、むしろこれほどの凶悪犯罪なのに不起訴率が29%にもなっていることの方が問題です。これだけでも米軍に甘い政府の態度が反映しています。

 重大なのは、そのほかの刑法犯では不起訴率が異常なほど高いことです。不起訴とは、検察が米軍人らを裁判にかけずに事件を終わらせるものです。その割合が高いということは検察が米軍人らをはじめから裁判にかける意思をもたなかったことを意味します。

 強姦(ごうかん)・同致死傷は不起訴率が74%、住居侵入は84%、窃盗では93%にもなります。日本人の場合の不起訴率は住居侵入では40%台、窃盗では50%台であり、これと比べても米軍人らの不起訴率はあまりにも高すぎます。検察が米軍人らを特別扱いにしているのは疑う余地がありません。

 検察が、一部の凶悪犯罪はそれなりの処理をするが、そうでないものの多くは不起訴にして裁判権を事実上放棄するのは、日本の裁判権放棄を約束した「日米密約」にしばられているからです。

 日本政府は一九五三年十月二十八日の日米合同委員会裁判権分科委員会で、「日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがない」との声明を行い、署名までしています。法務省は刑事局長名で検事長や全国の検事正に、「実質的に重要であると認める事件についてのみ第一次裁判権を行使する」との通達をだし、「密約」実施を徹底させています。

 政府は「日米密約」を否定していますが、法務省資料は「日米密約」の存在といまなお政府を拘束していることを示しています。

 かつて在日米軍司令部の法務担当ソネンバーグ中佐も「日本はこの了解事項を忠実に実行してきている」といっています。このことは法務省資料で裏付けられています。政府の「密約はない」というウソはもはや通用しません。

日本の主権を守れ

 日本政府の裁判権放棄の方針が、沖縄などでの米兵犯罪を助長させているのは明らかです。対米追随の態度をただしてこそ米兵犯罪をなくすことにつながります。

 政府は、主権をないがしろにした裁判権放棄の「日米密約」をただちに破棄して、日本国民の命と安全を守るべきです。



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