2009年5月11日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

お金なくても 保険証なくても 外国籍でも ホームレスでも

医療受けられます (^^)v

無料低額診療 広がる


積極広報で申請急増

■北海道

 北海道勤労者医療協会(道勤医協)は、無料低額診療制度を活用して弱者のために必要な医療を受けられるよう取り組みを強めています。

 「インターネットで勤医協の無料低額診療制度を見つけ、わらをもつかむ思いで電話しました」―二月、勤医協札幌西区病院に患者の妻から電話相談がありました。「夫が四〇度近く熱がでて、ほかの病院に相談しましたが保険証がないので断られました。収入も少なく困っていました」

 夫は受診の翌日に入院、心臓疾患が見つかり急きょ、同中央病院へ転院しました。

 道勤医協は一九四九年の設立以来、「お金のあるなしで命が差別されてはならない」との姿勢を貫いてきました。札幌、苫小牧、室蘭など道央圏で病院、診療所を運営し、民法に基づく公益法人として二〇〇四年から無料低額診療を行ってきました。〇八年には、札幌市内五病院・診療所が市に事業開始を申請し、認可されました。

 好評なのは制度を積極的に活用してもらおうと作製したポスターやリーフレット、ワッペン。医師や職員がつけたワッペンを見た患者から「これは何ですか」と聞かれ対話になったり、訪問した学校では「こんないい制度があるんですか」と養護教諭だけでなく、校長や教頭からも歓迎されました。道社会福祉協議会では「五月には全道事務局長会議があるので制度の説明をしてほしい」と要望されました。

 西区病院の行沢剛医療福祉課長は「〇七年二件だった申請が昨年は五十件、今年も急増しています。若い人の利用が増えています」といいます。

 派遣で月二十日間働いていた二十代後半の女性が、十二月から五日間になり収入が激減。女性は「熱が数日続いています。ほかの病気も心配」と来院、検査料がかかるので医師に相談し、制度利用を申請しました。

 道勤医協本部の柏原伸広組織広報部長は「安心してかかれる医療をめざして、大いに利用を呼びかけていきたい」と語っていました。(北海道・土田浩一)

「いのちの平等」掲げ

■兵庫

 兵庫県の尼崎医療生活協同組合(船越正信理事長)は、社会福祉法にもとづいて、無料低額診療事業を三月一日から開始しました。「いのちの平等」を掲げてきた尼崎医療生協は、これまでも個室であっても「差額ベッド料」を徴収せずに運営してきました。

 尼崎市民の暮らしは、国民健康保険の滞納世帯が43%を超え、生活保護率も高く、昨年度の児童生徒就学援助認定率は、小学校で25・6%、中学校で31・3%、全体で27・3%になるなど、深刻さを増しています。

 尼崎医療生協病院も各診療所も、治療を「中断」した患者さん、気になる患者さんの訪問を強めていますが、となりの人に引っ越し先をいわずに転居したり、「手持ちのお金がないから」と受診をためらっている人も増えており、窓口負担の心配をせずに受診できる制度の導入は緊急の課題となっていました。

 事業開始から四月中旬までに二十一世帯三十二人が適用されました。「わずかな国民年金だけの生活。『葬儀代』にと残している預金があるので生活保護が受けられなかった。助かります」「糖尿病の治療費が払えないため、受診していなかった。これで毎月通院できます」などと制度適用を喜んでいます。

 同事業を開始したことにより治療の中断対策につながっています。尼崎市保護課からは「生活保護を適用したので診療をお願いしたい」などと、十件を超える紹介があります。

 無料低額診療事業を開始したのは、尼崎医療生協病院、あおぞら生協クリニック、戸ノ内診療所、潮江診療所、東尼崎診療所、長洲診療所、ナニワ診療所、本田診療所、萌クリニック、生協歯科、戸ノ内歯科診療所です。(尼崎医療生協・粕川實則)

どんな制度なの?

 無料低額診療事業は、生計困難者が経済的な理由で必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう無料または低額な料金で病院にかかれる制度で、生活に困り医療費の支払いができない人や、保険証をもっていない人、ホームレスの人、外国籍の人も対象になります。都道府県などの認可を受けた医療機関が実施できます。

 この事業を実施している道勤医協では、窓口での一部負担金免除の基準として、(1)全額免除は一カ月の収入が生活保護基準のおおむね120%以下(一部免除は140%以下)と定め、(2)患者からの申し出や患者の生活困窮を職員が知った場合に医療相談員が面談し、公的制度などを検討したうえで、適用の判定をすることにしています。この制度は生活が改善するまでの一時的な措置であり、無料診療の場合は健康保険の加入または、生活保護開始までの原則一カ月、最大三カ月を基準に運用しています。

 「患者になれない病人」が急増する中、同制度は全国で二百六十三の医療機関しか実施していません(二〇〇六年厚労省調べ)。厚生労働省は「社会情勢等の変化に伴い、必要性が薄らいでいる」と同事業開始に抑制方針を取ってきましたが、〇八年、日本共産党の小池晃参院議員が指摘し、「各自治体は医療機関から申請があれば受理しなければならない」との答弁を引き出しました。「申請があれば受け付ける」などいくつかの地域で積極的な対応が生まれています。

 本来「お金の有る無し」にかかわらず医療を受ける権利を有することが憲法二五条の精神ですが、今の医療制度のもとで、セーフティーネットとして無料低額診療事業の拡充は最低限の課題です。(室田弘・全日本民医連事務局次長)



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