2009年4月23日(木)「しんぶん赤旗」

主張

「海賊対処」新法

暴力の応酬招く法案は廃案に


 アフリカのソマリア沖に派遣した自衛艦に、外国の船舶も警護対象に加えることを認め、武器使用も拡大する「海賊対処」新法案が、審議が始まったばかりだというのに与党が衆院通過を策し、民主党も「修正」協議に応じるという異常な事態となっていました。

 与党と民主の「修正」協議はまとまりませんでしたが、もともと「修正」は海外派兵を認め、憲法違反の内容を変えるものではありません。もちろん与党が狙う衆院通過の強行などというのは、絶対に許されません。新法案は、徹底審議で廃案に追い込むべきです。

深刻化する現地の治安

 ソマリア沖に「海賊」が出没し、通過する各国の船舶の安全を脅かしている問題は、本来は警察力で解決すべき問題で、ソマリアの政府が崩壊していることに根本的な問題があります。その点ではソマリアの国づくりと周辺国の警察活動への支援が最優先される問題ですが、各国が次々軍艦を派遣したなかで、逆に軍隊と「海賊」が暴力で応酬しあう危険な事態となっています。

 かつては「海賊」は、船舶を襲撃し乗組員を人質にとっても身代金が目当てで、船体や船員は傷つけないといわれていました。ところが最近、フランス軍が「海賊」二人を射殺したのに続き、アメリカ海軍の特殊部隊が米国籍貨物船の船長を人質にした「海賊」三人を射殺、「海賊」が「報復」を宣言し、貨物船をロケット弾で攻撃する事態が起きています。

 こうした中で日本が日本船の警護を目的にした自衛艦の派遣にとどまらず、警護の対象を外国船にも広げ、「海賊船」に打撃を与えるような武器使用の拡大も盛り込んだ「海賊対処」新法を成立させ、ソマリア沖へ乗り出して行けば、それこそ「海賊」問題を解決するどころか、事態をいっそう悪化させるおそれがあります。

 政府は、現在活動中の二隻の自衛艦に加え、P3C対潜哨戒機二機と百五十人もの関連部隊をソマリアの隣国ジブチに駐留させる方針です。インド洋で米艦などへの給油を行いながらソマリア沖自衛艦への補給も行う海自補給部隊を含めると、千人近い自衛隊が展開することになります。これはもはや戦時体制そのものであり、自衛隊が暴力の悪循環に巻き込まれる危険は、大きくなるばかりです。

 「海賊対処」新法案は、他国の船舶に「著しく接近」「つきまとい」「進行を妨げる」「海賊」に発砲し、殺害することも認めています。自衛隊が積極的に武器を使用することを認めたものです。戦争を禁止した憲法をもつ日本が、戦後初めて他国民を殺害することにもなりかねない内容であり、このことだけでも法案の成立を急ぐことは絶対に容認できません。

派兵恒久化許されない

 今回の「海賊対処」新法は、「海賊」対策を口実にしながら、武器使用などを拡大し、事実上、海外派兵の恒久化に道を開くものとなっていることも重大です。駐日米大使の候補とされるナイ元米国防次官補らが発表した日米同盟強化に関する報告書(二〇〇七年二月)は、「海事安全保障と海賊対策」で「指導的役割」を求めています。

 「海賊対処」を口実にした海外派兵を許すわけにはいきません。政府は「派兵先にありき」をやめ、政治・外交努力に徹すべきです。



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