2008年12月30日(火)「しんぶん赤旗」
主張
教科書検定手続き
これは改善どころか改悪だ
国の教科書検定調査審議会は二十五日、検定手続きの見直し案をまとめました。文科省はこれを受け、検定規則改定の概要を公表、意見公募をへて来年四月一日から実施する予定です。
モノ言えなくなる執筆者
見直しのきっかけは、昨年の高校日本史教科書の検定です。これまで意見をつけたことのなかった沖縄戦「集団自決(自死)」について学問的根拠なしに「日本軍の強制」の記述を削除させました。「軍の強制なしに、親が子を子が親を手にかけることはない」と沖縄の人々が撤回を求めて立ち上がり、全国からも声があがりました。
政府は追いつめられ、記述の部分的手直しをはかり、その時に、不透明な検定手続きの改善も約束したのです。ところが今回出てきた案は、改善どころか改悪です。
その最たるものは、教科書検定がすべて終わるまではどんな検定がおこなわれても、執筆者らは国民に何も言えない、そんな制度をつくろうとしていることです。
審議会報告は、教科書等の情報が検定終了前に流出し、調査審議に支障があると認めた場合には、検定審査の一時停止等の措置をとることを運用上明確化する、としました。沖縄戦の検定に即していえば、昨年の執筆者たちは、検定の最中に、国民に訴えることができました。今後はそれをすれば、審査の一時停止、つまり場合によっては教科書発行に支障をきたすような制裁を科すというのです。
その理由は「静ひつな環境の確保」です。沖縄戦に関する異常な検定への市民の抗議や、マスメディアが、「静ひつ」を奪ったというのです。世論に背を向け、密室の審議を正当化するものであり、報告の撤回をつよく求めます。
文科省が意見公募の際に示した「改定の概要」には、検定手続きの改悪がモノ言えぬ仕組みをつくるのではないかということについて、一言もありません。その姿勢自体が問題です。
なお審議会は、「透明性の向上」として、「調査意見書」などの事後公開をあげました。しかし、これらは今でも国民の請求に応じ公表されているものがほとんどです。今もっとも不透明で、検定を実質的にゆがめている検定調査官(文科官僚)の人選を公募制にするなど、民主的なものにすべきです。
事態の大本には、二〇〇六年の教育基本法の改悪があります。
改悪された教育基本法は、国家が上から国民に押し付けてはならない愛国心などの価値観を、「教育の目標」として条文にかかげました。検定の改悪は、改悪された基本法にそった教科書をつくるために検定の密室性を強化することに支配層のねらいがあります。
政府がこれらの価値観の強制を教科書に徹底させようとしていることは、審議会報告が全教科の教科書の申請に愛国心など基本法の「目標」をどう教えているかの書類提出を義務付けていることにもうかがえます。
国民に開かれてこそ
子どもの使う教科書は、読んで面白く、よくわかるものに改善される必要があります。そのためには、学問上の到達が反映され、執筆者の創意がいかされ、教員など多くの意見がもりこまれる必要があります。当面、教科書検定の手続きは、こうした観点から国民に開かれたものにこそすべきです。