2008年10月16日(木)「しんぶん赤旗」

経済時評

米国発の金融危機(2)

「基軸通貨ドル」はどこへ行く


 米欧日の七カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は十日、公的資金注入による資本増強などの五項目を盛り込んだ異例の「行動計画」を発表しました。

 直後の株価は世界的に急騰し、下落相場にひとまず歯止めがかかりました。しかし、これで金融危機が終わったわけではありません。とりわけ米国では公的資金の注入が国家財政の負担となり、ドル不安を増幅します。

 今回は、ブッシュ政権が、一方でアフガン・イラク戦争による巨額な軍事費と財政赤字を拡大し、他方で新自由主義的な金融政策を推進してきたために、経常収支赤字を限りなく膨張させ、基軸通貨ドルの信認をそこねてきた問題について考えてみたいと思います。

「ドル暴落」の要因と、それを繰り延べてきた条件

 日本経済新聞は八月二十八日朝刊で、「ドル防衛の秘密合意」のスクープを掲載しました。

 「米金融不安でドルが急落した今年三月、米国、欧州、日本の通貨当局がドル買い協調介入を柱とするドル防衛策で秘密合意していたことが明らかになった。ドル暴落で世界経済に大きな混乱が広がるのを回避するためで…緊急共同声明も検討された」

 ドル暴落の懸念は、すでに九〇年代から繰り返し指摘されてきました。米国が巨額な経常収支の赤字を出し続けてきたからです。

 ニクソン大統領がドルと金との交換停止を強行した一九七一年から〇六年までの間の経常収支赤字の累積額は、実に六兆ドル(一ドル=一〇〇円で概算しても六百兆円)を超え、ヘッジファンドの四倍近い額です。(注1)

 海外へ流出した不換ドルの大部分は、米財務省証券や米大企業株・債券の購入によって米国へ還流し、経常収支赤字をファイナンスすることでドル暴落を繰り延べてきました。

 こうした海外からの大量な資本流入がいつまで続くか。ブッシュ政権は、「米国の資本収支黒字」について、「原理的には…いつまでも純資本流入を受け取る(経常収支赤字を計上する)ことができる」などという“超楽観的な分析”をしています。(注2)

 たしかに基軸通貨ドルのもとでの米国型「金融モデル」の発展とICT(情報通信技術)革命という二つの条件の結合、さらにソ連崩壊後の軍事的な一国覇権体制も加わったために、米国の資本市場は“バブル的繁栄”を続け、大量の資本流入が続いてきました。しかし、これらの歴史的条件は、今回の金融危機によって急速に失われつつあります。

「ドルの一極支配」に代わる通貨秩序の模索

 最近では投資家としてよりも警世家として著名なジョージ・ソロス氏は、近著でサブプライム・バブルよりもはるかに巨大な、基軸通貨ドルの「超バブル」の時代が終焉(しゅうえん)を迎え、ドル暴落は必至だ、と述べています。(注3)

 ドル暴落は、ドル保有国にとっては、多大な損失を意味します。

 「日米欧をはじめ世界中のドル保有国が団結してドル防衛に動いている」「中期的にドル安が進むのは避けられそうにもない…ドル、ユーロ、円の事実上の三極体制に向かうとみていいのではないか」(丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長)(注4)

 ローレンス・サマーズ元米財務長官は、ドル体制を維持するには、中国の役割が決定的に重要だと主張しています。世界一の外貨保有国となった中国との協調を重視する米国の新たな戦略がかいまみえます。(注5

 いずれにせよ、米国の地位低下、中国、インド、ブラジルなど新興諸国の経済発展による世界経済の構造変化のもとで、世界は、ドル一極支配に代わる国際通貨の新秩序を模索する時代に入りつつあるといえるでしょう。

※   ※   ※

 「基軸通貨ドルのゆくえ」は、理論的にも興味深い研究課題です。

 岩井克人東大教授は、次のように述べています。

 「私が考える1つのシナリオは、基軸通貨としての『世界ドル』と、米国内の通貨としての『国内ドル』を何らかの形で分けるような仕組みが、模索されるのではないか、ということだ」(注6

 しかし、「国内ドル」と区別される「世界ドル」が信認されるためには、その「世界ドル」の価値を担保する条件(かつての「金・ドル交換」のような国際的約束)が不可欠でしょう。歴史的に振り返れば、米国経済が「金・ドル交換」に耐えられなくなったから、米国はその約束を一方的に破棄したのであり、当時よりさらに米国経済の地位が低下したもとでそうした条件が可能だとは思えません。

 いま必要なことは、第二の基軸通貨として発展しつつあるユーロの生成・発展の歴史的経験に学ぶことでしょう。ユーロは、ドイツ・マルクやフランス・フランなど、どの国の国民通貨ともまったく異なる共通通貨として、民主的なルールのもとで誕生した新しいタイプの「貨幣」だからです。(友寄英隆)

(「米国発の金融危機」(1)は八日付)


注1)経常収支赤字額は年々増大しており、二〇〇〇年以降の七年間だけで約四兆ドル(約四百兆円)にものぼる。

注2)『二〇〇六年大統領経済諮問委員会年次報告』(邦訳『米国経済白書2006』毎日新聞社)、一三四ページ。

注3)『ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ』講談社、二〇〇八年。

注4)「日経」九月二十六日付。

注5) “How to handle the falling dollar”The Financial Times:October 28,2007

注6)『エコノミスト』二〇〇八年九月九日号。


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