2008年10月10日(金)「しんぶん赤旗」

主張

4人のノーベル賞

基礎研究支援の大きな契機に


 科学界を中心に、日本中が大きな喜びにつつまれています。

 ノーベル物理学賞を素粒子物理学者の南部陽一郎、小林誠、益川敏英の三氏が、続いて、化学賞を発光生物学者の下村脩氏が受賞するという快挙を遂げました。自然科学における日本の基礎研究の水準の高さが国際的に評価されたことを、心から喜びたいと思います。

自然の奥深い謎を探究

 「物質になぜ質量があるのか」、「宇宙はどのようにできたのか」という根源的な謎を探究し、南部氏は「対称性が自発的に破れる」という大胆な学説を提唱することで、素粒子の質量を説明する理論に貢献しました。

 小林・益川両氏は素粒子の「対称性の破れ」がなぜおこるのかを「クォークの新しい枠組み」によって解明し、六種のクォークの存在を予言しました。

 素粒子論の発展は、電気抵抗がゼロになる超伝導や、宇宙の生成・発展の原理の究明、コンピューターなどの半導体技術の開発など、さまざまな分野の研究の発展にも大きな影響をあたえました。

 下村氏が受賞した「緑色蛍光たんぱく質の発見と発光機構の解明」は、「オワンクラゲがなぜ光るのか」を考えつづけたなかで生みだされました。

 脳の神経細胞の発達や、がん細胞が広がる過程の解明を促進するなど、分子生物学や生命科学の発展に大きな貢献をしています。

 こうした優れた研究は、いずれも、自然の奥深い謎を探究する基礎研究の分野で成し遂げられたものです。純粋に知的な好奇心から出発した研究ですが、長い視野でみれば、生産や医療、生活に役立つ新しい技術をうみだすことにもつながりました。

 基礎研究の重要な役割に光をあて若い世代や子どもたちに科学への夢をはぐくむことは、人類と日本社会の将来にかかわる大きな課題です。今回の快挙がその新たな契機となることが期待されます。

 その点で指摘しなければならないのは、基礎研究に対する国の支援があまりにも冷たい現実です。

 自民党政治の「構造改革」路線は、「国際競争力」を高めるとしてすぐに経済効果のでる研究に重点投資し、研究者を目先の業績競争ばかりに駆り立てました。その結果、研究現場ではじっくりと長期的視野で研究する環境が弱められ、国立大学法人では四年間で六百二億円もの予算削減によって、教員の研究費が底をつく事態もうまれています。民間資金も基礎研究には冷淡です。

 次代の科学をになう若い研究者たちが、博士になっても安定した研究職につけず、ポスドクなどの非正規雇用をくりかえす事態もひろがっています。「高学歴ワーキングプア」といわれ、若い世代から研究への夢を奪う事態になっているのです。

抜本的な対策の強化を

 こうした現状では、基礎研究の発展を望むことはかなわず、ひいては社会の発展の基盤を損なうことにもなります。日本学術会議は八月、政府に対して提言を行い、「基礎研究を推進する基盤は大きく揺らぎ、危機的といえる状況」であると警告し、「早急な対策を講じること」を求めました。

 ノーベル賞受賞を契機に深刻な事態を大本から正し、基礎研究への支援を抜本的に強めることは、国のはたすべき重要な責任です。


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