2008年6月28日(土)「しんぶん赤旗」

主張

有明海訴訟

政府は開門を決断せよ


 諫早湾の干拓事業をめぐる裁判で、地元の漁業者が待ち望んだ判決が出ました。佐賀地裁が干拓事業による漁業環境の悪化を一部認め、環境への影響調査のため、潮受け堤防の排水門の開放を命じたのです。

 かつてはノリ漁やアサリ漁で栄え「宝の海」と呼ばれた有明海の漁業被害は、諫早湾の干拓事業が始まった一九八六年以降顕著になり、九七年四月の潮受け堤防閉め切りを契機に有明海全域に広がりました。

 長崎、佐賀など有明海沿岸四県の漁業者らは干拓事業の中止を求め、二〇〇四年には今回と同じ佐賀地裁で工事差し止めの仮処分を認めさせています。ところが国はこれに従わず、福岡高裁での取り消しを受けて工事を再開、干拓工事は今年三月完了しました。

 地裁判決は、「漁業行使権の侵害に対して、優越する公共性ないし公益上の必要性があるとは言い難い」と断じました。干拓よりも漁業者の権利を重く見たのです。

 判決は、堤防閉め切りと湾内環境悪化の因果関係について、「相当程度の蓋然(がいぜん)性は立証されている」と認めました。その上で、それを否定するなら国側にも立証責任があるとして、開門調査さえ認めないのは「立証妨害」に当たると批判しました。

 長年にわたって干拓計画に固執し、中長期の開門調査を認めてこなかった国の態度の誤りは明らかです。国は判決を重く受け止め、控訴せず、開門を実施すべきです。

 画期的な判決を諫早湾干拓事業はじめ無駄な巨大開発を見直すきっかけにする必要があります。


「骨太方針」

「ムダ・ゼロ」の掛け声で

 経済財政諮問会議(議長・福田康夫首相)が、二〇〇八年版の「経済財政改革の基本方針」(「骨太方針」)を決めました。

 社会保障の抑制や労働者派遣の規制緩和、「大企業・大資産家に減税、庶民に増税」の逆立ち税制などの「構造改革」によって、深刻な生活破壊が広がっています。

 お年寄りにも若い世代にも、「構造改革」路線が暮らしの困難の根源となり、どの分野でも抜本的な政策転換が切実に求められていることは明らかです。

 それにもかかわらず福田内閣として最初の骨太方針は、社会保障の自然増を毎年二千二百億円も削減する小泉・安倍両内閣の方針を「堅持」し、「最大限の削減を行う」とのべています。その上で「ムダ・ゼロ」「政策の棚卸し」による歳出の削減にとりくみ、それでも対応しきれない必要経費については「安定的な財源を確保」するとしています。

 この“真意”がどこにあるのか、額賀福志郎財務相が記者会見で次のように語っています。「消費税の引き上げも含めて税制の抜本改革をしていくと言ってきている。その前提としてムダ・ゼロ作戦を展開し、政策の棚卸しを講じる」

 すべては消費税増税の前提条件をととのえるためのステップだという位置付けです。

 「ムダ・ゼロ」で掲げているのは成果主義など民間経営手法の導入やIT(情報技術)の活用など、国家財政から見れば重箱の隅をつつくような話でしかありません。最大の無駄遣いである軍事費を聖域にし、無駄遣いの温床である道路中期計画に固執する姿勢では、まったくの看板倒れです。個別の分野で「ムダ」に言及しているのは、よりによって社会保障制度を論じた章だけです。

 「政策の棚卸し」と言いますが棚卸しとは在庫の確認です。必要なのは単なる棚卸しではなく、「構造改革」路線という行き詰まった“経営方針”そのものの根本転換にほかなりません。それができない福田内閣と与党はもはや“不良在庫”です。

 社会保障の財源を口実に消費税の増税をねらいながら、骨太方針は「法人実効税率の在り方」を検討し「ビジネスコスト」を引き下げるとのべています。消費税を増税し、社会保障の抑制を続ける一方で大企業向けの減税を実行する―。庶民から大企業・大資産家に所得を移転する消費税の導入以来のやり方を、いっそう大規模に展開する財界本位のシナリオです。

 こんなシナリオを許すわけにはいきません。福田首相は「国民世論がどう反応するか、一生懸命考えている」とのべています。これまで一貫して医師不足を否定してきた政府の姿勢を転換させたように、国民世論を一気に広げ、消費税増税の企てを包囲するたたかいが重要です。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp