2008年6月16日(月)「しんぶん赤旗」

主張

先住民族決議

アイヌ政策の抜本的な是正へ


 アイヌ民族を先住民族だと認める決議を衆参両院の本会議で全会一致採択(六日)したさい、町村信孝官房長官は「アイヌの人々が先住民族との認識のもと、総合的な施策の確立に努める」と述べました。政府がアイヌ民族を「先住民族」だとようやく認めた瞬間です。

 昨年九月、国連が採択した先住民族権利宣言に賛成しながら、国会決議直前までアイヌ民族を先住民族と認めなかった政府が態度を変えたのは、世論を無視できなかったからです。アイヌ民族を先住民族と認めた以上、政府はこれまでの政策を抜本的に是正する必要があります。

深刻な差別と貧困

 アイヌ民族は、北海道、サハリン、千島の広い地域に先住してきました。国会決議が「独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族として認める」と表明し、政府が先住民族だと認めたのはたいへん重要です。

 アイヌ民族を先住民族と認める議論が日本で高まったのは、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の採択がきっかけです。長期にわたる議論を経て採択されたこの宣言は、先住民族の権利を認め、国連加盟国が守るべきルールと基準を示しています。オーストラリア政府が宣言を機に、先住民族を差別扱いしてきたことを謝罪するなどの動きも国際社会にはでています。

 宣言に賛成しながら、国会決議が採択されるまでアイヌ民族を先住民族と認めようとしなかった日本政府は、猛省すべきです。

 国会決議は、アイヌ民族が「差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、私たちは厳粛に受け止めなければならない」とのべています。じっさい、アイヌの人々の生活実態は劣悪です。

 北海道が二〇〇六年に実施した調査によれば、アイヌの人々の生活保護率は、全国平均よりも高い北海道全体の24・6パーミル(千分の一を一とする単位)のなかでもさらに高い38・3パーミルです。高校・大学の進学率もきわめて低い状態です。

 事態は深刻で、これ以上この状況を放置するわけにはいきません。

 そもそも明治政府が制定した差別法の「北海道旧土人保護法」にもとづいた政策を、同法が廃止される一九九七年まで政府が固持し続けたことが差別固定化の要因です。

 さらに、九七年にアイヌ文化振興法(アイヌ新法)ができても、政府が差別を解消し、生活保障に向けた積極的な政策をとらなかったことが差別と貧困につながっていることは否定できません。

 しかも、アイヌ民族が全国のどこに、どれほどいるのかさえ政府は実態調査していません。実態を把握しないで差別をなくすことなどできません。政府の姿勢が問われます。

 アイヌ民族の差別と貧困をなくすためには、こうした従来のアイヌ政策を政府が深く反省し、根本的に是正することが不可欠です。

生活と権利向上へ

 国会決議が政府に有識者懇談会の設置を求めたことも重要です。これには、国連先住民族権利宣言に盛り込まれた権利の実現について審議する審議会の設置を要求した日本共産党の紙智子参議院議員の提案も反映されています。

 アイヌ民族の差別と貧困をなくすためには、アイヌ子弟の教育の充実、就業支援とともに、アイヌ古老の生活の保障のための特別手当制度の創設などは不可欠です。アイヌ民族の生活と権利の向上をめざすとりくみをつよめることが重要です。


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