2008年5月29日(木)「しんぶん赤旗」

統治行為論とは?


 〈問い〉 名古屋高裁のイラク空自違憲判決は新鮮な驚きです。裁判所は憲法判断を避け、行政を追認する傾向にありました。それを理由づけた「統治行為論」とはどんなものですか?(茨城・一読者)

 〈答え〉 統治行為論とは、裁判所の違憲立法審査権について、“国家機関の行為のうち、条約の締結とか衆議院の解散等、国家統治の基本に関する極めて高度の政治性を有する行為(統治行為)は裁判所の司法審査の対象にならない”という理論です。戦前は、大審院(いまの最高裁にあたる)に違憲立法審査権がなく、統治行為論は問題になりませんでした。(新憲法の81条、98条で初めて裁判所は違憲立法審査権をもった)

 現憲法には、統治行為が司法審査の対象外であるとの規定はありません。しかし、アメリカ・フランス・ドイツなどでは判例や学説で認められているとされ、日本でも宮沢俊義氏の『日本国憲法』や山田準次郎氏の『統治行為論について』など多くがこの考え方をもっています。

 統治行為論を採用した判例には、砂川事件と苫米地(とまべち)訴訟の判決が有名です。

 米軍駐留が違憲かどうかが争われた砂川事件では、最高裁判決(1959・12・16)は、旧安保条約が「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であるから「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外」にあるとしました。52年8月の衆議院解散が違憲であるかどうかが争われた苫米地訴訟最高裁判決(60・6・8)は、三権分立の原則に基づく「司法権の憲法上の本質に内在する制約」を理由に、「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為」は有効無効の判断が法律上可能であっても裁判所の審査権の外にあるとしました。

 しかし今日、フランスやドイツの憲法裁判所もこの理論をとっていないとされています。今年5月7日、ドイツ憲法裁判所は、イラク戦争で下院の承認を得ずドイツ軍がNATO軍の交戦可能な行為へ参加したことを憲法違反と判決しています。アメリカでも基本的人権にかかわる事件では裁判所が積極的に憲法判断しています。

 学界でも、統治行為論の根拠について、強く批判する有力な主張がなされています。

 憲法判断が求められる事件の多くは、高度な政治問題です。違憲立法審査権が憲法上認められている以上、統治行為という理由で憲法判断を制限することは許されません。条約も内容が憲法に適合するか判断されるべきです。国会の解散手続が憲法の規定に反するとして訴えられた事件も、具体的事件での具体的な事実関係の審査を通じて裁判所がその当否を判断すべきです。裁判所が統治行為論で憲法の違憲立法審査権を放棄し、政府や立法府の違憲行為を追認することは許されません。統治行為論そのものが否定されるべきものです。(亮)

〔2008・5・29(木)〕


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp