2008年5月18日(日)「しんぶん赤旗」

伊江島事件に秘密覚書

「公務中」判断は米次第


 米兵が日本で裁判を受けるのを避けるためには、米軍は恣意(しい)的、一方的に「公務中」と言い張る―。国際問題研究者の新原昭治氏が明らかにした「伊江島住民狙撃事件」に関する米政府解禁文書は、そうした米軍の無法、横暴を生々しく示すものとなっています。


 事件に対し沖縄県民の間では「虫けら扱い」「人権無視」と憤激が起こりました。

 解禁文書によると、米側は当初、「もし、まともな法律的根拠に基づいて決定がなされて日本側に裁判権を渡したら、抗議運動は気勢をそがれるだろう」と狙います。そのため、日本に司令部を置く米第五空軍の司令官は事件を起こした米兵二人が「権限を大幅に逸脱したと裁定」。「公務証明書」を発行せず、裁判権を日本側に渡すことを正式通知します。

 ところが、その後、米ワシントンの米空軍参謀長が第五空軍に「公務証明書」を発行するよう指示。それを後押しするように米国務長官発の緊急電で「国務省・国防総省共同メッセージ」が出され、米側が第一次裁判権を行使する準備を進めるよう指示が出ます。

 事件の真実よりも、世界的な駐留態勢への影響が優先されたのです。

 実際、第五空軍は、ワシントンの指示のままに、事件の筋書きを正反対に書き換えました。事件は「空軍の職務上の公務としての行為(射爆場とそこにある米国の財産の保護)からなされたもの」で、「若干の程度の実力の使用(侵入者を連れ出すために手を出すとか、銃を向けるその他の措置)は、最小限のこととして、目的達成のために予想し得る」としたのです。

 当初、日本側は抵抗しますが、米側は拒否。最終的に日本側は「米空軍兵士らへの第一次裁判権の帰属をめぐる既得権を侵すことなく、…日本政府はこれら空軍兵士らへの裁判権を行使しない」ことを約束する覚書を結ばされます。

 米側が「公務証明書」を発行して「公務中」と主張すれば、ほとんどのケースで米側は裁判権を行使できます。例外的に日本側が「公務証明書」に反証をあげたのは、一九五七年のジラード事件とこの伊江島事件だけです。

 群馬県の相馬ケ原演習場で空薬きょう拾いにきていた日本人女性を狙撃し殺害したジラード事件では、米側が裁判権を自発的に放棄し、その代わり日本の裁判では軽い刑にするという密約を交わしました。

 もう一つの伊江島事件では日本側の反証を受け付けず裁判権を取り上げたのです。

 こうした一連の経過は、日米地位協定の下で、米側の都合次第で「公務中」かどうかが決められ、仮に日本側が反論しても米側が拒否すれば引き下がらざるを得ない仕組みになっていることを示すものです。(榎本好孝)



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