2008年5月1日(木)「しんぶん赤旗」

道路中期計画

地域に必要? 奈良にみる

道路できても病院なければ

医療予算増やしてこそ


 福田政権は十年間で五十九兆円をつぎ込む「道路中期計画」は撤回しようとはしていません。総額先にありきの中期計画は、地域にとって本当に必要なものなのか、奈良県にみました。(小林拓也)


地図

 「道路中期計画」では、道路をつくりつづける理由のひとつに医師不足対策を挙げています。「医師不足から救急医療施設がここ五年間で約一割減少しており、救急医療施設へのアクセスを確保する幹線道路ネットワークの整備は急務」などと強調しています。

 実態はどうでしょうか。南部の日本一広い村である十津川村。人口約四千人の村内には診療所が二軒、開業医は一軒です。救急病院はありません。急患が出た場合は、村の中心部であっても約一時間半かけて、隣接する五條市の病院に運ばなければなりません。村に住む男性(62)は「和歌山県新宮市へ行って、くも膜下出血で倒れた男性がいた。すぐに発見されて、病院に運ばれたので後遺症も残らず元気にしている。もし村で倒れていたら、完全にアウトだっただろう」といいます。

緊急手術できず

 冬柴鉄三国土交通相は国会答弁で、十津川村を例に挙げ、「新宮、五條に拠点的な病院がある」「道路を早く整備してほしいという話がある」などとパネルまで示して話し、道路の必要性を説きました。(一月二十八日、衆院予算委員会)

 しかし、冬柴国交相が名前を挙げた五條市の県立五條病院は、四年前に三十四人いた医師が、いまは二十一人と大幅に減ってしまいました。〇六年四月からは常勤の産科医がおらず、分べんを取り扱っていません。常勤の麻酔科医もいないため、緊急の手術ができず、救急・救命医療の拠点病院の役割が果たせずにいます。政府・与党の医療費抑制路線が生み出した「医師不足」が直撃したのです。

病院は満床状態

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(写真)十津川村の道路

 五條市に近い大和高田市内の土庫病院の吉川周作副院長はこう話します。「うちの病院でも満床状態で、緊急手術を受け入れられないことが多い。大臣には足元を見てほしい。道路ができれば解決するというのは順序が違う。医師の数が少ないことが抜本的な問題で、発想を変えてほしい。道路予算ではなく、社会保障予算を増やして医師を増やさなければ、解決しない問題だ」

 医師を増やしてほしいという声は奈良県下で党派を超えて広がっています。県議会の厚生委員会は昨年十二月に、お産を扱う産科医を増やす請願を全会一致で採択しました。

 奈良市内の、おかたに病院の井戸芳樹院長はこう訴えます。「県議会が医師不足を解決しようとしているのに、『道路ができればいい』というのは何もわかっていない。全体の医師数を増やして、地域の拠点病院を確立しなければ、この地域の医療は成り立たない」


 道路中期計画 二〇〇八年度からの十年間で、総額五十九兆円を道路整備につぎ込むという道路計画。四割以上を占めるのが高速道路建設計画で、一万四千キロの高規格幹線道路の整備、六千九百五十キロの地域高規格道路の整備などが盛り込まれています。


高速優先 生活道そっちのけ

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(写真)建設が進む京奈和自動車道の橋脚=大和郡山市内

 奈良県内では、「道路中期計画」で位置づけられた高規格幹線道路・京奈和(けいなわ)自動車道が建設中です。

 奈良県部分の建設費用の約三割を県が負担しています。その額は二千億円以上。〇四―〇六年度の三年間で、県の道路予算の11%にあたる約二百億円を負担しました。

 一方、大和郡山市から橿原市に至る約十四キロの生活道路、橿原バイパスの整備はなかなか進みません。橿原バイパスは、地元住民の要求で、一九七三年に県が都市計画決定し、建設を進めてきました。しかし、第四次全国総合開発計画が八七年に閣議決定され、九一年に京奈和道建設が決まると、高速道路建設が優先されたのです。

 奈良国道事務所の担当者は「バイパス工事は進めているが、いつ完成するとははっきりいえない。まずは京奈和道をつくる」といいます。

 道路問題に詳しい奈良自治体問題研究所の小井修一事務局長はこう話します。

 「各地の自治体首長の多くが、道路特定財源の暫定税率復活を求めるのは、橿原バイパスのような生活道路をつくってほしいからです。しかし、構造を変えなければ、高速道路建設優先、生活道路は何十年もつくられないという仕組みは変わらないのです。中期計画は撤回し、まずは生活道路をつくることが必要です」


 京奈和自動車道 京都、奈良、和歌山を結ぶ約百二十キロの自動車専用道路。総事業費は一兆五千億円以上です。奈良県内の延長は約四十七キロで、事業費は約八千億円です。

 第二名神高速道路、山陽自動車道、神戸淡路鳴門自動車道、紀淡海峡横断道路とともに形成する約三百キロの関西大環状道路の一部とされています。



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