2008年3月22日(土)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症新基準

これでは解決にはならない


 原爆症認定基準の見直し問題で、認定審査にあたる厚生労働省の原子爆弾被爆者医療分科会(佐々木康人会長)が十七日、同省が提示した「新しい審査の方針」を了承し、決定しました。

 「被爆の実態を無視した認定却下は許せない」との各地の集団訴訟で国が敗訴しつづけ、見直しが迫られたことによるものです。しかし新基準は、改善点はあるものの大きな問題が残され、抜本的な改善からは遠いものとなっています。

新たな線引きに怒りが

 新基準は、「原因確率」にもとづく現行の認定基準は「改める」と明記しました。「原因確率」は被爆距離、病気の種類、性別や年齢などから発症の確率を割り出したものです。残留放射線や放射線降下物などの影響をほとんど無視しており、機械的な切り捨ての原因になってきました。このため原爆症と認定されたのは、被爆者健康手帳を所持している人の1%にもなりませんでした。

 新基準では、これまで“放射線の影響は受けていない”とされてきた爆心地から二キロメートル以遠での被爆や、爆発後に爆心地付近に入市しての被曝(ばく)の場合も対象とされました。ところがそこに、新たな線引きが持ち込まれたのです。

 新基準は▽爆心地から約三・五キロメートル以内で被爆▽原爆投下後約百時間以内に爆心地から約二キロメートル以内に入市▽原爆投下から約百時間後、約二週間以内に約二キロメートル以内に約一週間以上滞在した被爆者が、がんなど五つの疾病になれば“積極的に認定する”としました。

 しかし、四キロメートル以遠で被爆した人も原爆のせいとしか考えられない状態で亡くなり、また裁判でも勝訴しているのです。さらに放射線の影響の強いことが明らかながんや白血病まで線引きし、また裁判でほとんど認められ判断が確立されている甲状腺機能低下症、肝機能障害が対象疾病から外されています。

 集団訴訟では、五年前の二〇〇三年に国を相手に提訴以来、六回連続して原告側が勝訴しています。どの判決も、被爆状況や被爆直後の行動、急性症状、今日に至る健康・疾病状況を全体的・総合的に判断し、遠距離被爆者や入市被爆者も原爆症と認定するよう命じています。全国十五地裁・六高裁で現在三百人余が係争中ですが、新基準によれば、これまで勝訴した原告をふくめ、三分の一が認定されない危険があるともいわれます。

 広島・長崎に原爆が投下されてから六十三年。厚労相は“高齢化した被爆者をできるだけ救済”といっても、切り捨て認定の誤りを認めようとしません。長年にわたり、被爆の実態、被爆者の声を無視してきたことへの真剣な反省のなさが、新たな切り捨ての危険の要因になっています。すでに四十五人の原告が亡くなっています。さまざまな苦難に加え、いま原爆が原因だとしか思えない疾病や障害に苦しんでいる被爆者の救済を、あいまいな形で決着させることは許されません。

すべての原告の救済を

 厚労省は新基準による審査を四月から始めるといいます。一方、五月から六月にかけ、集団訴訟では初の高裁判決をはじめ、各地で判決が相次ぎます。

 国・厚労省は、司法の判断も無視し、切り捨て認定をつづけるのかどうか、これまでにもまして厳しく問われます。認定制度の抜本的改善とともに、原告全員の救済で一刻も早く集団訴訟の解決をはかることが求められます。


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