2007年12月27日(木)「しんぶん赤旗」

主張

沖縄戦教科書

沖縄の心軍靴で踏みにじった


 アジア・太平洋戦争末期の沖縄戦での「集団自決」(強制集団死)をめぐり、文部科学省が高校用教科書の検定で「軍の強制」記述を削除させた問題で、同省は二十六日、検定意見の撤回は行わず、教科書会社の訂正申請でも住民が「自決せざるを得ないような状況に追い込まれた」とは書いても「強制」記述は認めないとする検討結果を明らかにしました。

 「集団自決」が日本軍の強制抜きに起こりえなかったことは歴史の真実です。文科省があくまで「強制」記述削除を押し通したのは、日本軍による残虐行為を美化し沖縄の心を軍靴で踏みにじったのも同然です。

11万人超す県民大会

 文部科学省の「強制」記述削除にたいしては、沖縄県議会をはじめ県内のすべての自治体が撤回を求める意見書を出し、検定撤回を求めて九月末開かれた県民大会には、復帰後最大規模の十一万人を超す県民が参加するなど、党派を超えた運動が続けられてきました。検定撤回を求める声は全国に広がっています。

 こうしたなか、政府も「沖縄の思いを重く受け止める」(福田康夫首相)といわざるを得なくなり、文部科学省も、教科書会社から訂正申請があれば検討すると答えてきました。今回の文科省の決定は、国民世論を無視できないところに追い込まれながら、検定は撤回せず、教科書会社の訂正申請さえ書き換えさせたもので、政府の責任はきわめて重大です。

 もともと「集団自決」は、住民の虐殺などと並んで、沖縄戦での日本軍の残虐行為としてよく知られています。島ぐるみで戦争に動員された沖縄の住民は、米軍の攻撃が迫っても投降は許されず、軍からあらかじめ手りゅう弾などの武器を渡されていたことからも、「集団自決」が日本軍による強制・強要・誘導によって起きたことは明白です。

 これまでも教科書には「日本軍に『集団自決』を強いられ」などの記述があったのに、削除を求められたことはありません。にもかかわらず、二〇〇八年からの高校教科書の検定で「沖縄戦の実態について誤解するおそれ」との意見がつき、「強制」記述が削除されたのです。自衛隊が海外に派兵され、再び「戦争する国」になろうとしているなかで、軍事最優先の体制をつくる動きに呼応していると見るのは当然です。

 文科省はあくまで学問的な研究の結果にもとづくものだといいはろうとしましたが、「集団自決」から「軍の強制」を否定する意見はまともに通用するものではありません。一部の軍関係者などが現地の守備隊長の直接の命令はなかったと裁判を起こしましたが、直接の命令の有無にかかわらず、住民は軍から「強制」されるなかで「自決」に追い込まれたことが逆に明らかにされました(来年三月判決)。裁判の一方の当事者の主張で教科書の記述が削除されたとすれば、それこそ異常のきわみです。

検定制度にメスを

 「集団自決」から「軍の強制」の記述を削除する教科書検定は、学問的な通説を逸脱した、文字通り一方的な立場から行われたものです。まさに教育への政治介入そのものであり、文部科学省が検定を撤回しなかったばかりか、訂正申請を修正させてまで「強制」記述を認めなかったのは、教科書検定制度の危険性を浮き彫りにしています。

 誤った検定意見を撤回し、正しい記述を回復するのは当然であり、政治的な検定がまかり通る密室の教科書検定制度そのものを、抜本的に見直すことが不可欠です。



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