2007年12月14日(金)「しんぶん赤旗」

薬害肝炎

早期救済に背向ける 高裁和解案

命の問題は待ったなし

国・製薬企業の責任重い


 血液製剤「フィブリノゲン」などを投与され、C型肝炎ウイルスに感染させられた被害者が国と旧ミドリ十字(現田辺三菱製薬)に損害賠償を求めた薬害肝炎訴訟で、大阪高裁での和解骨子案が出されました。審理中の全国五つの高裁で初めてです。薬害肝炎問題全面解決にとっての核心は何かを探りました。(菅野尚夫)


国の責任を狭く限定

 「私はもう肝臓がんまで進行しました。どうか命を助けてください」。匿名で薬害肝炎九州訴訟に加わった原告番号二十二番の女性原告は薬害肝炎患者の一律救済へ首相の決断を迫った十日、首相官邸前で、そう叫びました。

 大阪高裁の「和解骨子案」は、この原告の叫びにこたえて曇りない正義の和解案を決めたでしょうか。否です。投与時期の違いによって、患者救済に線を引いた内容になりました。原告団・弁護団がこれを拒否したのは当然です。

 これまでの地裁段階の判断は、国の責任を認めなかった仙台地裁を除き、東京、名古屋、大阪、福岡の四地裁では国の責任を認めましたが、投与時期などによって分かれました。

 大阪地裁判決は、一九八七年四月以降、福岡地裁判決は、一九八〇年十一月以降、東京地裁判決は、一九八七年四月から八八年六月に限って国の法的責任を認めました。

 名古屋地裁判決は、「フィブリノゲン」製剤は、止血剤としての有用性はなく、「安易に止血剤として使用されないように説明する義務を怠った」として最も早い製造・承認した段階(一九六四年)から国と製薬会社の過失を認定しました。

 大阪高裁の和解案は、国の責任についてより狭く限定しています。全員の早期救済の原告の声に背を向けたのです。全国最初の高裁での判断は、正義を葬り去りました。

政・官・業の癒着を断て

 薬害エイズ事件で刑事責任を問われ、今回薬害肝炎訴訟でも、国とともに被告となった旧ミドリ十字(現田辺三菱製薬)。同社は、これまでも繰り返し薬害加害企業として登場しています。なぜ過ちを何度も犯すのか。

 そこには、自民党厚生族議員らに政治献金をくりかえし、元社長の松下廉蔵氏をはじめとして厚生省官僚の天下りを受け入れてきた政・官・業の癒着構造があります。患者の命より企業の利益を最優先する企業体質とともに、献金と天下りを通して、企業体質を容認する国と自民党政治家の姿を浮き彫りにしています。

全員救済と根絶求める

 開会中の衆参厚生労働委員会で、日本共産党の高橋千鶴子衆院議員と小池晃参院議員は、被害者の求める早期全面解決を求めて国と企業の責任を明らかにし、薬害根絶を求めてきました。

 十一日の参院厚生労働委員会では、小池議員がC型肝炎ウイルスを検査できるようになった九〇年以降にも感染被害が発生していることを示して、ウイルスに汚染されているか検査さえすれば防げた被害を防止しなかった国の責任を厳しく批判。「東京地裁判決では(九〇年以降に感染した被害者は)司法の判断をされていないため投与時期で線引きはできない」と、すべての被害者の救済を国に迫りました。

 また、八七年に青森県で集団感染事件が発生した時に、厚生省薬務局(当時)から旧ミドリ十字に天下った今村泰一東京支社長が、同省後輩官僚に圧力をかけて副作用被害隠ぺいを克明に打ち合わせていた犯罪を示して癒着の構造を断ち切ることを求めました。

 一方、高橋議員は、血液製剤「クリスマシン」を投与されてC型肝炎ウイルスに感染した被害者の「娘だけでも救ってほしい」という悲痛な声を紹介して、投与した製剤の種類の違いの区別なく全員の救済を求めました。

 「きちんと対応していれば相当防げた。二度と繰り返してはならない」と厚労相の答弁を引き出しました。

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