2007年11月22日(木)「しんぶん赤旗」

Q&A 原油高騰

1バレル=100ドルに迫る勢い


 ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場で、世界的指標のWTIが史上最高値をつけ、一バレル=一〇〇ドルに迫る勢いです。一九八〇―九〇年代にはほぼ一〇―二〇ドル台だったのに比べると、想像を絶する値上がりです。原油高騰の背景を考えてみました。(北川俊文)


最大の要因は――

投機による押し上げ

  なぜ、こんなに急騰したのでしょうか。

  原油価格の変動には、多くの要因が絡み合って作用しています。しかし、直近の急騰では、最大の要因は、原油が投機目的で取引されていることにあるといえます。

 世界の原油需要は日量約八千五百万バレルとされます。しかし、毎日、その何倍もが取引されています。そのことでも、実際の需要のない投機目的の取引が大きいことが分かります。

 石油業界の関係者は、現在の需給関係では一バレル=五〇―六〇ドルが妥当な水準で、それ以上は投機による押し上げ分だとみています。

 世界的に低金利によって「金余り」現象が続いています。それが投機資金と化し、もうけ先をさがして動いています。高止まりする原油の市場には、以前から投機資金が流入していました。

 それに加え、八月以降は、米国の低信用層向け高金利型(サブプライム)住宅融資の焦げ付きが発端で、住宅ローン担保証券やその他の証券の価格や格付けが急落したことで、投機資金が証券市場から逃避し、原油などの商品市場に向かっています。そのため、原油だけでなく、金属や穀物なども高騰しています。

 また、サブプライム・ローン問題で信用不安が起き、各国の通貨当局が大量の資金を市場に緊急投入しました。それがまた、投機資金を膨らませる結果になっています。

他の要因は――

需給逼迫や情勢不安

  「絡み合って」というと、ほかにどんな要因があるのでしょうか。

  第一に、需給の逼迫(ひっぱく)です。中国など新興経済諸国を中心に、石油需要が急速に伸びています。一方、原油を増産する余力が少なくなっています。そのため、将来も安定して供給できるかどうか、不確実さが増しています。

 世界の原油埋蔵量は、現在の消費水準で五十年ほど賄えるとされます。それ以上という試算もあります。各国は非常時に備えて石油を備蓄しており、日本も百八十日分ほどを確保しています。また、世界の総量でみると、供給が需要をやや上回っています。差し当たっては、石油は足りているはずなのです。

 しかし、ガソリンなど白油が多く採れる軽・中質油に需要が集中し、需要と供給の不適合が起きていて、そのために逼迫感が増幅されます。

 第二に、産油国の情勢が供給不安をあおり、市場の動向に作用します。

 例えば、イランの核開発に対して制裁が発動されると、報復で輸出を減らされるかもしれないという見方があり、イランをめぐる情勢が悪化すると、市場は「買い」に走ります。トルコがイラク北部のクルド人地域を攻撃すると、そこを通るパイプラインが被害を受けて、供給が減るという考えもあり、この地域の情勢が市場に影響します。

 したがって、世界の平和と安定が原油供給の「地政学的リスク」を小さくするといえます。

 第三に、米国の要因があります。世界最大の石油消費国の米国では、石油需要のほぼ半分がガソリンです。冬には暖房用石油の消費が多くなります。しかし、米国の石油精製能力に限界があり、夏にはガソリン、冬には暖房用石油の不足が起きがちです。石油製品の不足が市場で原油価格を押し上げます。

 それは、原油が安かった八〇―九〇年代に、もうけにならないとして、大手石油会社が新規投資を渋り、精製設備を統廃合し、設備も老朽化したからです。そのため、施設はフル稼働状態で、事故や災害はもちろん、施設の補修も石油製品の供給に影響します。

 さらに、州ごとに環境規制が違い、他の州の石油製品を緊急に融通することも容易でないといいます。そのことも逼迫感に拍車を掛けます。

 これらの要因が相互に絡み合って、市場の取引に作用するのです。

原油価格どう決まる――

市場任せで大変動

  原油価格は結局、市場が決めるのでしょうか。

  七〇年代までは、石油輸出国機構(OPEC)が決め、価格は固定していました。しかし、七〇年代の二次のオイルショックを経て、OPEC諸国以外での原油生産が増え、OPECの比重が低下しました。

 その結果、原油の価格は、決定の主導権がOPECから市場に移り、市場の思惑で変動するようになりました。世界の原油価格の指標も中東産原油から、WTIに代わりました。

 市場が価格を決め、その指標がWTIになったことで、原油価格がかつてより激しく変動するようになったといえるでしょう。投機性を高めている現在の市場にいっさいを任せっきりにしていては、需給関係からかけ離れた変動は避けられないでしょう。

表

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