2007年9月22日(土)「しんぶん赤旗」

自民総裁選とテレビ報道

この大騒ぎぶりは何なのか


 テレビの自民党総裁選報道の大騒ぎぶりはなんなのでしょう。連日、どのチャンネルでも福田康夫、麻生太郎両候補のその日の動向が事細かに報じられる。まさにテレビジャック状態です。

 参院選に敗北しても、続投を決めた安倍首相が、所信表明の直後に政権を投げ出すという前代未聞の異常事態です。なぜこういう事態を招いたのか、まず自民党として謝罪し、国民に明確にすることが当然でしょう。この肝心な問題をすり抜け、「福田か麻生か」を演出する自民党総裁選は“虚偽の争い”としかいいようがありません。

選択を迫る

 この点でテレビの基本的スタンスが厳しく問われます。自民党のスケジュール通りに総裁選になだれ込み、連日「福田か麻生か」と視聴者に選択を迫るような放送をたれ流すことではないはずです。

 しかし、実際は―。NHKは十五日午前の総裁選受け付けの生中継に始まり、昼は両候補の共同会見を一時間にわたり報道、夜には総裁選特集。十六日の「日曜討論」は二人の生討論、午後は「立会演説会」生中継と、自民党のスケジュールどおり逐一報道します。東京・渋谷、大阪、高松の合同演説も、外国特派員協会での会見も細大漏らさず放送。その後のそれぞれの行動もニューストップで指定席のように伝えています。

違いはない

 民放も似たりよったり。「福田VS麻生勝つのはどっち」「政界サラブレッドの一騎打ち」と競馬レースのような報道がほとんどです。しかも、候補者自身が「違いはない、同じ自民党ですから」と語るように、ほとんど違いのない両者の話を、連日報じているのです。参院選の審判をどう受け止めるか、民意にどう応えるのか、安倍辞任の異常事態をどう説明するのか―。テレビ局がこれを問わないのではジャーナリズム失格です。

 自民党のプロモーションビデオのような映像を流し続ける一方、必要な情報は国民に知らせていません。改憲をたくらむ安倍政権は五月の国会で改憲手続き法を成立させました。しかし福田、麻生の両氏に憲法問題の姿勢をただした番組を知りません。麻生氏がかつての侵略戦争を肯定する「靖国」派の中心人物であること。福田氏が自民党の九条改憲案を作った責任者であることなどは、国民としても無関心でいられない情報です。麻生氏の「キャラが立ちすぎ」など表面的なことは繰り返しますが、総理の資質を問う作業をしていません。

 安倍辞任による政治空白は国民に被害を与えています。テレビは、この大被害を不問にし、自民党という一政党の、結果の見えた選挙を国民的大イベントに仕立て上げ、この空白を埋めてみせたのです。政治的公平を定めた放送法や放送基準に照らしても問題です。

 六年前、同じことがありました。当時の森政権は「神の国」発言や、えひめ丸と米原潜の衝突事故の対応を批判され、支持率は一ケタに落ち込んでいました。その自民党を救ったのは総裁選報道でした。小泉純一郎、橋本龍太郎、亀井静香、麻生太郎氏の争いに、田中真紀子氏が小泉支持で参戦。テレビは「純一郎、真紀子フィーバー」を演出しました。二人の強烈な個性があったとはいえ、熱狂的な報道がなければ小泉政権の誕生はなかったはずです。

反省どこへ

 そして二年前の郵政解散選挙。テレビは、刺客だ、ホリエモンだと追いまわし、「改革派」「抵抗派」の二項対決をあおり、自民党勝利に「貢献」しました。このとき多くの放送人から「自民党の広報戦略に乗せられた」と反省の声があがりました。その反省はどこへいったのでしょうか。

 テレビ報道が政治に与える影響はきわめて大きい。新しい政治への国民的模索が始まっている時代、テレビには国民の目線で政治を探求する報道を期待したいものです。(荻野谷正博)


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