2007年6月10日(日)「しんぶん赤旗」

コムスン不正

問われる国の責任

介護保険 民活路線の破たん


 介護事業所の不正申請で厚生労働省から行政処分を受けた、グッドウィルグループ(GWG)傘下の訪問介護最大手コムスン。介護保険制度の下で急成長を遂げたコムスンの不正事件に、国の責任を問う声が上がっています。(内藤真己子)


 「今回の問題は、介護サービスを市場に委ねれば競争原理が働きサービスの質が向上する、としてきた政府の社会保障分野の規制緩和と民間活力導入路線の破たんです」。京都女子大学の石田一紀教授は指摘します。

 政府・厚労省は、一九九〇年代後半以降の社会保障構造改革のなかで、社会保障分野への営利企業の参入の規制を緩和、民間営利企業の参入を促進してきました。「そのトップランナーが二〇〇〇年実施の介護保険制度だった」と石田氏。

 実際、厚労省はコムスンの訪問介護サービスを、介護保険制度導入に向けたモデル事業の第一号に指定するなど、同社の介護保険事業への参入を促してきました。

利益第一主義

 そうした流れのなかで、「介護は有望市場」というGWGの折口雅博会長がコムスンを買収。徹底した利益第一主義の経営で、事業の拡大をはかってきたのです。

 コムスンの職員にノルマを課し業績を伸ばさせる手法は業界では有名でした。「遠くのヘルパー事業所から所長がよく営業に訪ねてきた」という大阪府堺市のあるケアマネジャー(44)は、「責任者は売り上げノルマを持たされ事業所同士が競争させられて、達成できなければ会議で強くしかられたり、配置転換もあると聞いた」と言います。

 また、「赤字」が明らかになると介護保険の実施からわずか二カ月あまりで、千二百カ所の訪問介護事業所の四割の閉鎖を打ち出し、一年後には四分の一に縮小させるなどこれまでも地域に混乱をもたらしてきました。

公的部門廃止

 今回、厚労省自身がコムスンの処分を打ち出す一方、事業譲渡の凍結を要請しました。しかし、六万五千人の同社のサービス利用者の受け皿となる代替サービスをどうやって確保するのか。厚労省は示すことができません。

 それは、政府・厚労省が介護分野への営利企業の参入を進めるなかで、公的サービスの切り捨てを進めてきたからです。

 自治体や社会福祉協議会など公的部門がおこなってきたサービスは、「民間の公正な競争を妨げることになる」と次々に廃止されていきました。

 都内のあるケアマネジャー(41)は「区の社会福祉協議会は、独居の認知症の高齢者など対応が難しい人のケアマネ事業からも撤退しました。これでは高齢者の人権が守られない」と訴えます。

 石田氏は「今回の事件で、営利企業に依存した基盤整備がいかにもろいものか明らかになった。民活路線を進めた国の責任がいまこそ問われなければならない」と指摘します。

 自治労連・東京介護福祉労働組合の清沢聖子書記長は言います。「国や自治体は住民の福祉向上と、生存権保障の義務が課せられています。いまこそコムスン利用者のサービス保障のためにも、自治体や社会福祉協議会などによるサービス実施の拡大と、従業員の雇用を含めた救済措置が必要です」



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