2007年6月5日(火)「しんぶん赤旗」

主張

大気汚染訴訟

補償・被害根絶に踏み出せ


 東京大気汚染公害訴訟で、政府が和解のために六十億円を東京都に拠出する方針を示しました。原告が要求している医療費助成制度が実現する可能性が高まりました。

 被害者の深刻な実態からすれば、遅すぎたとはいえ、当然のことです。

生きる希望も失われ

 国内で最も深刻な自動車排ガス汚染を抱える東京では、DEP(ディーゼル排気微粒子)を含むディーゼル排気や二酸化窒素による健康被害がきわめて広範に広がっています。

 喘息(ぜんそく)などを発症した人たちの生活実態は過酷なものです。発作で夜も眠れず、解雇されたり、商売を廃業したり、家庭崩壊に至った人も少なくありません。病気を苦にひきこもりになる子もいます。

 東京経済大学の研究グループが行った調査では、患者は年収三百万円未満が五割という低所得です。しかも、毎月の通院費が二―六万円、症状が重く入院をくりかえすために年間の医療費が三十―百万円を要します。費用が心配で入院を避けたり、受診を抑制することで、いっそう重篤な状態に陥る例もまれではありません。

 東京の喘息患者らが国と都、自動車メーカー七社を訴えた一九九一年の一次提訴から原告はこれまでに約六百三十人。すでに百二十人が、報われぬまま亡くなりました。せめて医療費の助成制度をつくることは「待ったなし」の課題です。

 国や都の賠償責任、自動車メーカーの社会的責務を認めた東京地裁の判決が〇二年に下され、東京高裁で和解交渉が続けられてきました。都が医療費助成制度を創設する案を出してからも、「国の政策と因果関係がない」と拒み続けた国の態度は大きなあやまりです。医療費助成の実現から、被害者への補償、実効ある公害対策の実現へと進むべきです。

 公害は、企業の利潤追求のなかで引き起こされる生活環境と自然環境の人為的破壊です。いま深刻な問題になっているディーゼル車を中心にした大気汚染も、自動車メーカーの身勝手な行動とこれを助けた自民党政府によって拡大したものです。

 一九七〇年代に新潟水俣病など「四大公害訴訟」のたたかいと世論の広がりでかちとられた「公害健康被害補償法」は、不十分ながら公害被害者を原因者の負担によって救済する道を開くものでした。しかし、財界はその後「公害は終わった」という強力な反撃をすすめ、国は八八年に指定地域を解除して以降、新たな公害患者の認定をしていません。

 その一方で、自動車メーカーは七三年の石油ショックによる売り上げ不振への対策として中・小型商用車にディーゼル車を大量投入します。危険性を認める科学的知見は広がっていたのに、日本政府がPM(粒子状物質)規制に乗り出すのは米国から十年遅れる九三年以降です。自動車メーカーも米国向けには国内向けより三割もPMの少ない車を出す能力を持ちながら、国内では汚染をまき散らす車を売り続けていました。

政治の姿勢かえるとき

 世界環境デーを前に、全国の公害被害者や家族らは四日、一日も早い公害根絶とすべての被害救済を訴えて全国公害被害者総行動に取り組みました。

 いま地球温暖化、ゴミ問題など、人類の未来にかかわる環境問題が深刻な広がりをみせています。その根本にあるのは大企業の身勝手で横暴な行動です。被害の拡大を止め、被害者を救済する方向へ、政治を大きく切りかえることが急務です。


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