2007年4月9日(月)「しんぶん赤旗」

改憲手続き法案

「国民望まず」 浮き彫りに


 「安倍晋三首相らの前のめりの姿勢に危うさを感じる」(中国新聞三月二十九日)、「国民的な論議を深めるのは、これからではないか」(京都新聞同二十八日付)。改憲手続き法案の強行成立を急ぐ安倍晋三首相と与党にたいし、地方紙が社説で次々と批判の声をあげるなど、国民が改憲手続き法案を望んでいないことが浮き彫りになっています。(藤原直)


拙速批判つぎつぎ

地方紙社説

◆「国民置き去り」

 「本来、冷静に粛々と議論し、その過程を国民に周知し、理解してもらうのが筋だろう。今、とてもそんな状態にあるとは思えない」(河北新報四月三日付)、「慌てる必要はまったくない」(東京新聞三月三十日付)。法案強行にむけた拙速審議を戒める声が次々とあがっています。

 秋田魁新報は「最近の安倍首相は、指導力と強引さをはき違えている」(三月二十五日付)と指摘、国民合意もなく四月中旬までの衆院通過をはかる与党の姿勢を批判しています。

 北海道新聞は三月二十五日付で、「国民の意思を直接問うための重要法案の審議が、このように国民置き去りで進められていいのだろうか」と疑問を呈し、与党単独採決も辞さない自民党の姿勢を批判。「期限を切らずに慎重な審議を続けてもらいたい」と要求しています。

◆法案の内容深刻

〈最低投票率〉

 与党と民主党の「修正協議で両案の相違は小さくなっているというが、両案の一致点、沈黙している点にこそ深刻な問題がある」。神奈川新聞三月十六日付はこう指摘して次のように書きます。

 「沈黙している大問題が、最低投票率である。国民主権の観点からすれば、低投票率のために極めて少ない賛成で改憲が成立するような事態は避けるべきだ。一定の投票率を超えなくては国民投票が成立しない仕組みが必要ではないか」

 山陽新聞も三月三十日付で、「最低投票率の制度も採用しておらず、仮に投票率50%なら四分の一の賛成で憲法改正が可能になる」と指摘しています。

 さらに、国民投票で改憲案の承認に必要な「過半数」について、法案が有効投票総数の過半数としていることについて、「最もハードルが低い」と指摘。「法案を細かく眺めると、改憲論者に都合よくできている」と批判しています。

 〈有料CM〉

 投票日二週間前までは自由とされる有料CMの問題でも、「資金力の多寡で改憲への賛否の広告量が不公平になる事態にどう対処するのか」(神奈川新聞)との疑問が投げかけられています。

 毎日新聞・大分版の支局長評論でも「日本経団連は改憲賛成を明言している。国民投票でも自民党を応援するだろう。改憲派が電波を買い占める事にならないだろうか」(三月十三日付)とのべています。

 公務員の国民投票運動を規制する問題については、中国新聞が「公務員らをどこまで縛ることになるのかも不透明だ」と指摘しています。

 北海道新聞は、「公聴会は、単なる採決への通過手続きではない」と強調。公聴会で提起された最低投票率や周知期間の短さなど、論点を精査し直せと求めています。

◆世論とギャップ

 「肝心の国民はどう考えているだろうか」。中国新聞は三月十九日付社説で、共同通信社の世論調査では七割近くが「今国会での成立にこだわる必要はない」と答えていると指摘しています。

 社説は、「手続き法とはいえ、国民投票法案が可決されれば、憲法審査会の設置など次の段階に進むことになる。論議が十分尽くされぬまま、改憲へ向けた既成事実が重ねられていくことだけは避けたい」と強調しています。

「必要なし」はっきり

世論調査

グラフ

 産経新聞四月三日付の世論調査で「後半国会で最優先すべき課題は」との質問に「憲法改正手続きの確立」と答えた人はわずか1・9%。安倍首相が、最優先課題と力んでいるのに、あげられた八つの課題のなかで最下位です。最も高い課題は「年金・医療・福祉」の40・7%となっています。

 読売新聞(二月二十日付)の調査でも、「安倍内閣に優先的に取り組んでほしいもの」(複数回答)として「憲法改正」をあげた人はわずか6・2%。列挙された十七課題中、下から二番目という低さです。

 そもそも、九条改憲を国民が望んでいないことは明らかです。

 「読売」(六日付)の憲法問題世論調査では、九条について「これまで通り、解釈や運用で対応する」と「9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」をあわせて「改正」反対・不要が56%で、「改正する」36%を大きく上回っています。

 九条改憲のための仕組みづくりが必要でないことはこの結果からも明らかです。


審議時間は「郵政」の半分以下

 地方紙が指摘するように改憲手続き法案の審議はまったく不十分です。

 改憲手続き法案の衆院憲法調査特別委員会での審査時間は約55時間。郵政民営化関連法案が議論された衆院の特別委員会での約120時間の半分にも足りません。昨年の衆院の教育基本法特別委員会の約106時間と比べても著しく不十分です。

 地方公聴会も、「政治改革」関連法案では、衆院特別委員会が全国10カ所で開催したのにたいし、手続き法案では、新潟と大阪の2カ所のみ。

 中央・地方の公述人・意見陳述者の合計も「政治改革」の74人にたいし、21人にすぎません。

 国の基本法である憲法に直結する法案をこんなわずかな審議で押し通すのは、議会制民主主義の軽視といわざるをえません。

表


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