2007年4月7日(土)「しんぶん赤旗」

番組の政府介入強める

放送法改定案を国会提出


 政府は六日の閣議で放送法改定案を閣議決定し、同日夕、国会に提出しました。関西テレビの「発掘!あるある大事典」の番組ねつ造問題を受け、総務大臣が放送局に再発防止計画を提出させることができる行政処分を導入するなど、全体として政府の介入を強める内容となっています。NHK受信料の支払い義務化は先送りしました。

 行政処分は、「虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送」で「国民生活に悪影響を及ぼすと認めるとき」、総務相が放送局に再発計画の策定・提出を求め、意見をつけて公表するというものです。ただ、放送事業者でつくる第三者機関・放送倫理・番組向上機構(BPO)が自主的に再発防止に取り組んでいる間は施行を凍結するとしています。

 NHK関連では、国際放送への命令放送の条文を「命じる」から「要請する」に表現を変更し、制度を残しました。不祥事問題に絡んだガバナンス(組織統治)強化策としては、経営委員会の監督権限の明確化や外部監査の導入を盛り込みました。

 二〇一一年の地上デジタル化に向けた緩和策も打ち出しています。NHK番組のインターネットでの有料配信制度の導入、民放キー局が地方局を傘下に収める持ち株会社の設立を容認。携帯端末向けの「ワンセグ」での独自番組も可能としています。

 改定案に放送局への行政処分が盛り込まれたことについて、日本民間放送連盟の広瀬道貞会長は「報道と表現の自由を損ねるものであり反対する」との談話を発表。NHKも「懸念がある」とコメントしています。


解説

権力介入排除の根幹変更

 現行放送法は一九五〇年に制定され、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と番組編集の自由を定めています。放送法制定にかかわった荘宏氏はその著書『放送制度論のために』で「この精神は法律の全体を貫いている」「放送番組について官憲の力を徹底的に排除」と記しました。放送法の根幹は、表現の自由、国家権力による介入の排除です。改定案は関西テレビの「あるある大事典」ねつ造問題を口実に、放送法の根幹を変更しようとしています。

 とくに、五三条で番組内容が「国民生活に悪影響を及ぼす恐れなどがある場合」の行政処分を新設したことは重大です。「悪影響」と判断するのは総務大臣なのですから政府による際限のない放送干渉が可能になりかねません。

 放送法が求めているのは放送の自主・自律です。「あるある」問題では、第三者委員会が、ねつ造再発防止策を提案しました。またNHKと日本民間放送連盟(民放連)でつくる第三者機関、放送倫理・番組向上機構(BPO)は、ねつ造などの不祥事を起こした放送局への調査、報告を求める権限を持つなど、再発防止へ大きく踏み出しています。改定案はこうした放送界の自主的な努力を無視するものです。

 改定案はNHKについては経営委員会の権限を強化しています。委員の任命権が総理大臣が握っている今の体制では、政府の影響力強化にもつながりかねません。国際放送への命令制度では総務大臣の「命令」を「要請」に表現をやわらげましたが、要請された場合「これに応じるよう務める」という「努力義務」を新たに設けました。これも放送の自由への重大な干渉というべきです。

 一方、民放には持ち株会社制度を認め、キー局による系列局の子会社化を可能としました。地方局の整理統合、情報産業の独占化の加速が狙いです。「マスメディア集中排除原則」を緩和し、放送の多様性が失われることになりかねません。(荻野谷正博)



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