2007年3月28日(水)「しんぶん赤旗」

どうみる「従軍慰安婦」問題

CS放送「各党はいま」 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は二十七日、CS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演して「従軍慰安婦」問題について語りました。聞き手は朝日新聞コラムニストの早野透氏。


安倍発言――自ら継承を言明した「河野談話」を事実上否定するもの

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(写真)CS朝日ニュースターに出演する志位和夫委員長=27日

 早野 にわかに、「従軍慰安婦」の問題が再燃しています。アメリカの議会で「従軍慰安婦」問題の決議案が出されて、日本に謝罪を求めていますが、安倍さんの対応を見てどう思いますか。

 志位 この問題はどこから起こったかというと、アメリカの下院の外交委員会で、日本に謝罪をもとめる決議案が提起されたのに対して、安倍首相が「慰安婦を強制連行したことを裏づける証拠はない」と、繰り返しのべたことにあるわけです。そして、「アメリカで仮に決議が採択されてもそんなものには従うつもりはない」とものべた。

 早野 「謝罪もしない」と、この前も答弁していましたね。

 志位 そうだったですね。とくに「強制連行の証拠はない」と。このことを繰り返し言ったということになりますと、これはまず「河野談話」の事実上の否定になるわけです。「河野談話」というのは、たとえば「慰安婦」を集める――徴募の過程でも、「甘言、強圧」など強制が働いたということを認めていますね。

 早野 「軍の要請を受けた業者が」と。

 志位 「官憲などが直接これに加担したこともあった」と、日本の国家権力が関与したということも認めています。そして、何よりも重大なのは、「慰安所のなかでの生活は、強制的な状況のもとでの痛ましいものだった」とのべている。ここに強制性の核心があります。ですから、安倍発言は、「河野談話」の事実上の否定になります。

勇気をもって証言した元「慰安婦」を二重に辱めることになる

 志位 もともと「従軍慰安婦」の問題というのはどういう問題か。日本が植民地にしていた朝鮮、台湾、軍事占領していた中国、東南アジア、こういう国々から八万人から二十万人、あるいはそれ以上ともいわれる規模で、女性たちを戦場に連れて行った。そして「慰安所」に閉じ込めて、性行為を強要した。これは、身の毛もよだつような、非人道的な行為です。これだけのことの全体を、国家権力と軍の強制なしに行うなどということは、およそ不可能なことです。それをいまになって「強制連行の証拠はなかった」と。

 「慰安婦」とされた女性の多くは、朝鮮半島から連れて行かれた女性だと言われています。十四歳、十五歳の少女もいた。そういう少女が自分の意思で戦場にいくなどということはありえないことです。そのことは、元「慰安婦」の方々からのたくさんの証言でも裏づけられています。

 早野 勇気ある方々が、九〇年代のはじめから名乗り出て。

 志位 九〇年代から名乗り出てこられた方々ですね。無数の証言があります。それを公的に認定した裁判所の判決もあります。アメリカ議会での証言もあります。そういう方々から見ると、二重に辱められたということになるわけですよ。一度は戦場で、二度目は安倍首相によって。つまり自分たちの証言はウソだといわれたに等しいことになるわけです。安倍発言がきっかけになって、アメリカでは下院の決議案の賛同者が一気に広がったという事態がおこっています。

歴史認識とともに人権認識が問われている――発言の撤回が必要

 早野 「河野談話」との食い違いが問題になっていると。これからどうしたらいいのでしょうか。

 志位 私は、首相が、ただ「自分は『河野談話』を継承します」「お詫(わ)びします」と繰り返すだけでは、問題が解決しないと思います。自らがのべた「強制連行の証拠はなかった」ということについて、これは事実とちがいましたと、そこを撤回して詫びないと、問題は解決しないのです。

 さらにもう一つ、自分が任命している下村博文官房副長官が、「従軍慰安婦そのものがいなかった」と言い出したでしょう。(下村副長官は)「従軍記者とか、従軍看護婦というのはいたけど、従軍慰安婦はいなかった。慰安婦はいたけれど、軍の関与はなかった」ということをのべた。これは「河野談話」の全面否定になります。これは「河野談話」を覆そうという流れが、今回の問題の底流にあることをしめすものです。

 この問題は非常に深刻です。侵略戦争への無反省というだけでなく、日本政府の人権認識の根本が問われているのです。

拉致問題を解決するうえでも、首相は態度をあらためよ

 早野 アメリカから安倍首相は拉致問題についてはとても熱心だけれども、「従軍慰安婦」への態度と矛盾しているのではないかという議論が出ていますが。

 志位 これは当然の批判です。ワシントン・ポストがそうした趣旨での痛烈な社説をつい最近書きました。私たちが日本国民として、拉致問題の全面解決を訴えていくのは当然の正当な要求であることはいうまでもありません。

 早野 これは当然ですね。

 志位 ええ。ただ、それならば「従軍慰安婦」問題で、歴史の真実をゆがめたりすべきではない。日本人拉致は絶対に許されない人権蹂躙(じゅうりん)の国際犯罪ですけれども、「従軍慰安婦」問題も女性を強制的に痛ましい状況においやった一大犯罪です。これについてきちんと謝罪して補償すれば一つの解決になります。

 早野 国家の補償をすればですね。

 志位 ええ。しかしそれをせず、いまになって「強制はなかった」と言い出したら、過去の問題にならない。いまの問題になるんです。

 いま日本政府にたいして、「ダブルスタンダード(二重基準)」ではないかという批判があります。つまり拉致問題は熱心だけれども、「従軍慰安婦」の問題は無関心と、これでは人権の基準が「ダブルスタンダード」ではないかという批判ですが、これは当然のものだと思います。

 私は、拉致問題を本当に解決するうえでも、「従軍慰安婦」問題で間違った態度をとり続けるということが障害になってくると思います。せっかく拉致問題について国際的な理解がだんだん広がってきたときに、ぶち壊しにするような関係になっている。

 早野 なるほど。

 志位 私は、拉致問題を解決するうえでも、首相はいまの態度をあらためるべきだということを強く言いたいと思います。

 早野 安倍政権の基本的な矛盾に逢着している感じがします。

歴史に反省のない勢力が、憲法を変えることの危険

 志位 さらに、もう一つ、憲法(改定)との関係も重大です。

 早野 それはどういうことですか。

 志位 つまり安倍首相はいま、「自分の任期中に憲法を変える」と宣言し、この国会で改憲手続き法を通すと、たいへん危ない状況をつくっています。その安倍首相が、歴史認識の根本にかかわる問題で、歴史をわい曲する発言をするとなると、そういう勢力による憲法改定は何かということになる。つまり過去の戦争に反省のない勢力が、憲法を変えたら本当に恐ろしいことになる、こういう批判がアジアから起こっています。

 この問題は、憲法問題をいよいよ深刻な問題にしています。ですから憲法擁護の訴えを「従軍慰安婦」の問題とのかかわりでも、いま大いに重視してやっていくことが大事だと思っています。



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