2007年2月24日(土)「しんぶん赤旗」
事件リポート
自衛隊情報提供者捜査
その先に報道管制
軍事秘密優先で米に忠誠
中国海軍の潜水艦事故情報を読売新聞記者に提供したのは自衛隊法違反(秘密漏えい容疑)にあたるとして、防衛省情報本部の一等空佐への捜査に乗り出した自衛隊。報道機関への情報提供者をめぐる本格捜査は極めて異例で、「知る権利」「報道の自由」への深刻な影響が懸念されます。
「おかざりみたいにしか見られていなかった“黒子”が突然、表舞台に飛び出してきた」。元公安当局関係者の言葉です。
「黒子」とは「情報提供者」を事情聴取、自宅や職場などを捜索した警務隊のこと。警務隊は特別司法警察職員として、部隊や基地内での自衛官の刑事事件の捜査をし、隊員を逮捕・送検する司法警察権を持っています。旧日本軍の憲兵にあたります。
そんな“黒子”がなぜ表舞台に――。「アメリカですよ」と強調するのは防衛省・自衛隊に詳しいベテラン記者。
「アメリカから日本は軍事情報の秘密保持が弱いといわれてきた防衛省首脳部が、省移行を機会に米軍に秘密保護で忠誠を見せた」「中国の潜水艦事故情報は秘密漏えいに当たらない。通常なら事件にならない話を警務隊を使って表面化させ、米軍再編でギクシャクしている日米関係の改善もねらったものだ」
適用拡大
しかし情報提供者への捜査は防衛省・自衛隊や米軍を取材対象にする報道機関やマスコミ関係者に強い衝撃となっています。
テレビなどで解説する軍事評論家の一人は「窮屈感が出てくる」と懸念を隠しません。
元公安関係者も「自衛隊法は秘密漏えいへの罰則適用を自衛隊員に限っていない。取材者にも適用できるようになっている」と指摘します。
確かにこれまでの自衛隊法は「職務上知り得た秘密を漏らした」自衛隊員に対し「一年以下の懲役又は三万円以下の罰金」を科すだけでした。
ところが政府は二〇〇一年九月のアメリカでの同時テロに対応した、自衛隊のインド洋派兵のどさくさに自衛隊法を「改正」、罰則の適用を外部にまで拡大しました。防衛庁長官(当時)が指定する「防衛秘密」の「漏えい」を教唆・共謀した場合、「三年以下の懲役」にするとしています。
同法「改正」には自民、公明の与党とともに民主党も賛成しました。
自衛隊法「改正」の国会審議で意見陳述した自由法曹団の吉田健一弁護士は今回の異例捜査について「憲法九条を改悪し、アメリカと一緒に海外で戦争する国・自衛隊をめざした軍事優先、『知る権利』『報道の自由』制限に向けての一歩」と警告します。
追加措置
事実、日米両政府は〇五年十月の在日米軍再編合意の中で軍事機密情報の「保護」を取り決めています。「双方は、共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置をとる」
前出の元公安関係者が言います。「日本政府はアメリカと軍事情報保護一般協定(GSOMIA)を結ぶつもりですよ」
GSOMIA―。これは米軍に関する手書き文書からメモ、写真、デザイン、模型、電子メールなどあらゆる表現物を「秘密情報」として保護の対象にし、それを口実に国民を取り締まる軍事秘密保護法です。
「軍事情報優先は安倍首相や民主党の小沢一郎代表などが言う憲法九条を捨てた“普通の国”の姿だ。戦前は軍機保護法、今は日米同盟が報道管制の執行官になりつつある」。元公安関係者の指摘です。