2007年2月12日(月)「しんぶん赤旗」

多重債務救済 奄美市が支援

クレ・サラ相談で窓口

生活できる状況をつくるのも行政の役割

消費や税金に支払われれば地域も活性化


 クレジット・サラ金の高金利が社会問題化しています。多重債務被害を生み出す異常な高金利をただす貸金業法の改正は昨年末、国会で成立。一方、多重債務者を直接的に救済する地方自治体の取り組みも始まっています。全国から“奄美方式”として注目され視察が相次ぐ鹿児島県奄美市の取り組みは―。(佐藤高志)


地図

 “のどか”という表現がピッタリの目抜き通り商店街。しかし…。

 大通りを一歩抜けると、都会で見なれた看板がいや応なく目に飛び込んできます。「アイフル」「武富士」「レイク」…。

 通称“サラ金通り”と呼ばれる一画です。目につくのは「最短三十分でお振込み」などの甘い誘い文字。貧困層を狙うサラ金業者が離島にも進出しているのです。

怖かった

 「借金を抱えた生活は、本当に泥沼でした」。奄美市に住む川村恵さん(37)=仮名=は、多重債務を抱えて市役所を訪れた一人です。

 高校一年の息子と中学一年の娘との三人暮らし。生活費を入れず、暴力を振るう夫と一九九五年に離婚してから女手一つで子どもを育ててきました。

 サラ金からの借金は、娘の出産費用などに当てるために八万円を借りたのが始まり。「取り立てよりも、借金が夫にばれて殴られるのが怖かった」という恵さん。

 月八万円程度のパート収入では生活費すらねん出できず、別のサラ金業者から借金して利息を返す多重債務状態に。

 夫と正式に離婚した後の食費は月一、二万円に切り詰めたといいます。「子どもにおもちゃ一つ買ってやれない。娘の同級生の親から千円、二千円の借金をしたこともあった」とつらかった時期を振り返ります。

 ケースワーカーに勧められ役所を訪れたのは二〇〇四年十一月。窓口で、うつむき目をあわせようとしない恵さんの話を市の職員が時間をかけて聞いてくれました。

 「多重債務をまず解決しましょう」。その言葉で、初めて自分の借金総額に真剣に向き合ったといいます。

 弁護士を入れた債務整理で取り立てもやみ、自己破産へ。「先を考えたら不安はあります。でも、もう死のうとは考えない」。恵さんの顔にようやく笑顔が戻りました。

携帯の番号

 奄美市は典型的な弁護士過疎地。市民が頼るのは役所しかありません。

 市役所別館にある市民課の市民生活係は、入り口から一番近くの小部屋にあります。市民が気軽に相談できるようドアは開けっ放し。

 担当者は丁寧な聞き取りと同時に、債務整理後の生活再建支援も欠かしません。自立支援課(生活保護課)、国保課などと連携して、支援にあたります。

 市民生活係を十七年間しているベテラン職員・禧久(きく)孝一さん(52)は「行政の役割は、市民が安心して生活できる状況をつくること。ならば、多重債務者を法律家の元へスムーズに導き、救済の手助けをすることも、やはり行政の大事な仕事なんです」と。「借金は個人の問題」と、自力での解決を迫ったりすることはありません。

 「まずは相談者の安心と信頼を得ることが大切」と行政の心構えを説く禧久さん。自殺を考えた相談者には必ず、自分の携帯の番号を知らせています。「窓口が開いていなくても、いつでも電話で相談できる。その安心だけで相談者の信頼が大きく変わるんです」。

 一昨年三月には、日本弁護士連合会が常設の「奄美ひまわり基金法律事務所」を開設。市の市民生活係と法律事務所が緊密に連携できるようになりました。

 市役所を訪れた相談者の多重債務解決率は実に90%超。ひまわり法律事務所が回収した多重債務の過払い金は一年間余で四億円を超えています。

 同市の幹部職員も「本来、消費や税金に支払われるべき、お金がサラ金業者に吸い込まれる。これが本来通り地域にまわれば、それだけ地域も活性化する」と。

党や団体

 市役所には、サラ金被害だけでなく、さまざまな生活相談が寄せられています。昨年の相談件数は八百九十八件(うち多重債務二百七十五件)です。

 一方、市役所に負けず劣らずの相談実績を持っているのが日本共産党市議団や名瀬の生健会、奄美民商の三団体。三団体に持ち込まれる相談件数は役所の約二倍です。

 「党の生活相談活動は、既に市民の間に定着しています。でも、市役所の相談活動も、また市民が誇る大金星」。こう指摘するのは日本共産党の三島照市議です。

 「僕らは相談者と協力して市と交渉します。でも、直接、生活保護や市税の減免など行政手続きを進める当事者にはなれない。だから、当事者である行政の積極的な取り組みが大事なんです」。行政が入ることで、サラ金業者の態度も変わるといいます。三島市議は、「奄美市の取り組みは、その気になれば、どの自治体でもやれる。多額の予算もいらない」と同様の組織の広がりに期待を寄せていました。


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