日本共産党

2002年11月26日(火)「しんぶん赤旗」

国立大法人化 渦巻く不安

ノーベル賞も夢のまた夢?!

学費値上げで学生来ない?!


 文部科学省は、全国九十九の国立大学を法人化することを決め、来年一月からの通常国会に「国立大学法人法(仮称)」案を提出するとしています。いま、全国の大学や地域では、法人化への深刻な危ぐと不安の声が渦巻いています。


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「法人化粉砕! 10・18東大大集会」に全国から参加した大学関係者=10月18日、東京・文京区の東京大学本郷キャンパス

 日本共産党国会議員団は、今年、十六の国立大学長と懇談してきました。そこでだされたのは―。

 「学問は六年で評価できないものが多い」(林勇二郎金沢大学長)

 「大学の自治と学問の自由を守りたい」(宮本憲一滋賀大学長)

 「すでに法人化された機関では予算が毎年1%削減されている。静岡大学にあてはめると一億四千万円の削減になる」(佐藤博明静岡大学長)…。

 どの学長からも法人化への不安や懸念が表明されました。

 三年連続のノーベル賞受賞で日本中が沸きあがっているさなか、ノーベル賞を生み出した当の大学では、国立大の法人化によって、創造的な基礎研究ができなくなることへの深刻な不安がひろがっています。

 「これはかなりの危険をはらんでいる。…物理学賞の小柴氏が成功させた巨大実験を、果たして法人にできるだろうか」(藤原正彦・お茶の水女子大教授、「毎日」十月十七日夕刊)、「産業界と結びつかない基礎的な分野、文化にのみ寄与するような『役に立たない』分野は立ち枯れていく…十年先にはノーベル賞は夢のまた夢となりかねない」(池内了・名古屋大教授、「朝日」十月二十一日夕刊)。

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 地方自治体からも「地域のための地道な研究がなくなる」という不安の声があがっています。片山善博鳥取県知事は、鳥取県西部地震のときに、鳥取大学が地道な研究の成果をいかして余震の予測を正確におこない、的確なアドバイスをもらった例をあげ、政府の「大学改革」によって「本当に必要な研究、地道で息の長い研究、効率性や採算性の尺度から合わない研究がなくなってしまう」(六月二十四日の県議会)と批判しています。

 北海道の室蘭市では、「国立大学はいったいどうなるのか」と、地域住民と室蘭工業大学が懇談会を始めました。高砂町で三十八年間下宿を経営する遊佐智利さん(72)は、「学生とは一緒にご飯を食べながら何でも話しました。大学祭にも寄付をだすなど、大学とは密着しています。学費が上がれば田舎に来る学生はいなくなってしまう」と心配します。

 これまで全国統一だった国立大学費は、「国が示す範囲内」で各大学ごとに「額を決定する」ことになり、多くの大学で相当の値上げが予想されます。文科省の調査検討会議の委員は、どの大学も上限で横並びするため「結果として授業料の値上げになる」と指摘しています。

 横浜国立大学では、学長が「授業料を上げることになれば学生は来なくなる」と心配し、法人化後の学費を試算。その結果、今の学費が維持できるのは経営学部だけで、理工系を含む授業料の値上げは必至とみています。

 さらに、「国立大学も民営化できるところは民営化」(小泉首相)することになれば、完全な独立採算です。政府部内の研究会が行った試算では、その場合に学費は最低で八十六万円、最高で三百七十七万円の値上がりになります。(図参照)

大学解体反対 ひろがる運動

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 各大学では、すでに「中期目標」原案を作成するために膨大な作業に追われ、「休日を返上してやっている。研究もままならない」という悲鳴があがっています。教職員らは、組合などのアンケートに、鹿児島大学で55%、北海道大学で67%が「法人化に反対」と回答しています。

 こうした中で、全国大学高専教職員組合は請願署名運動を全国で展開、これに全労連、全教、国公労連、公務労組、医労連、全医労、マスコミ文化情報労組会議、私大教連、科学者会議、新婦人などの諸団体が賛同しています。また、科学者会議や全学連、育英会労組、全教などが共同して大学問題各界懇談会をひらいており、関東地方では、全大教関東ブロックと関東国公が十六日に討論会をひらくなど、共同のたたかいがひろがっています。

国立大学の法人化

 自民党政府の「行政改革」の中でもちだされ、小泉内閣が「民間経営の手法で運営する『国立大学法人』にする」として打ち出したもの。文科省の調査検討会議が、その構想を三月に発表しました。

 法人化は、これまでの国立大学制度を解体し、大学の独立性・自主性を根本から失わせます。

 国立大学の教育研究の「目標」は各大学が自ら決めるものですが、国立大学法人では、文科相が各大学の「中期目標」(六年間)を策定し、これを大学が達成できなければ予算が削られます。国立大学の学費は国会の審議ぬきで、それぞれの大学が独自に決めるようになります。教授会を基礎にした大学運営は、「トップダウン」のしくみに変わります。教職員を非公務員にするとともに、大学の執行部に企業などからの学外者が参加して大学の意思決定をにぎり、「競争原理」や「効率的運営」を追求します。

 


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