日本共産党

2002年11月23日(土)「しんぶん赤旗」

全国トンネルじん肺 提訴

地獄の苦しみ、国に責任

原告団訴え


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東京地裁に提訴する全国トンネルじん肺根絶原告団、同弁護団と支援者たち=22日、東京・霞が関

 「国が発注したトンネル工事でじん肺になった」と二十二日、国の責任を求めて東京地裁に提訴した全国トンネルじん肺根絶原告団の被害者たち。「すでに百八十四人もの仲間の命が奪われている」と記者会見した船山友衛団長(68)はせき込む声を振り絞って、国民の支援を訴えました。

 「もう待てない。二年で早期決着を」と話す船山団長。「トンネルや炭鉱でのじん肺だけでなく他業種でも被害を発生させている。これまで企業の責任を明確にし和解が成立したが、国は恒久対策や被害根絶に背を向けている。たたかわざるを得ない」と国を相手にした訴訟を起こした思いを話します。

 原告団の八木沢義昭事務局長も「死にものぐるいでたたかう」と並々ならぬ決意を語り、「いまも多くの患者が発生し、地獄の苦しみをしている。その仲間のためにも国に責任を取らせる」といいます。

 「裁判によらないでトンネルじん肺患者の権利を迅速に救済するシステムの創設と、被害根絶のために不可欠な国の施策を確立させる」(原告団声明)ことが訴訟の目的と小野寺利孝・原告弁護団長は話します。

 「この二つの課題を未解決のままたたかいを終わらせることはできない。国が(事業の)発注者としての安全配慮義務違反と被害防止のための規制権限や監督権限を行使しなかった法的責任を明確にさせる歴史上初めての裁判」と裁判の意義を強調しました。


原告団 国交省に要請

 「苦しくてつめが肉に食い込むほど胸をかきむしる。じん肺患者・家族の苦しみをじん肺対策の基礎にしていただきたい」―二十二日午前、じん肺患者らはトンネル工事の発注官庁である国土交通省を訪れ、じん肺根絶のための対策強化を要請しました。要請したのは全国トンネルじん肺根絶原告団、同弁護団、全日本建設交運一般労働組合(建交労)の代表約三十人。国土交通省からは、建設業課、技術調査課の課長補佐ら四人が応対。

 「裁判によらない患者救済制度の実現に努力してほしい」との要望について、国土交通省側は「現時点で考えていない」と冷たい返事。「粉じん測定の義務付け、粉じん曝露(ばくろ)時間の削減など根絶のための抜本対策を確立してほしい」との要望にも「国土交通省としても措置を講じている」と“問題なし”の態度でした。

 このため、代表らは「いったい国土交通省はじん肺を根絶するという気持ちはあるのか」「いまなお重症のじん肺患者が発生しているが、発注官庁として責任を感じないのか」などと責任回避を厳しく批判する声があがりました。


解説

裁判によらない救済を

 今回の東京地裁への提訴は、これまでのじん肺訴訟のたたかいをふまえた、じん肺根絶への新たなたたかいを意味します。

 じん肺被害者の多くは高齢者。退職して十年、二十年後に発病、肺の機能破壊で、家族ともども「地獄の日々」を余儀なくされます。

 トンネルじん肺補償請求団は「生きているうちに救済を」と当初「裁判によらない患者救済」を求めました。加害企業がこれを拒否したため、一九九七年五月にトンネルじん肺訴訟を起こしました。原告約千五百人にのぼる裁判は三陣におよび、おそくとも来年七月末までの和解成立ヘ向けたとりくみがすすんでいます。

 和解はいずれも被告企業がじん肺発生の責任を認め、謝罪し、再発防止を誓約するという内容。今回の訴訟はこの成果を生かし、残された課題を解決し、患者の早期救済、じん肺根絶のたたかいをいっそうすすめるために提起されました。とくにじん肺根絶は多くの課題が残されています。

 その一つはトンネル工事現場ではいまなお多くのじん肺患者が発生していること。しかし、国土交通省自身、法定労働時間(週四十時間、一日八時間)をはるかに超える拘束十一時間、実労働時間十時間をトンネル工事の積算基準にしています。粉じんのなかでの長時間労働を容認し、じん肺発生の要因をつくりだしてきました。このこと一つとっても国土交通省の責任は重大であり、じん肺根絶のための抜本的な国の施策が緊急に必要になっています。

 「裁判によらない早期の患者救済のシステム」も国は「事業主と被用者の問題」として、行政としての責任を放棄しています。請求団や弁護団はこのシステムについて「ADR(裁判外紛争処理制度)とトンネルじん肺補償基金」の創設を提案しています。

 国の責任を明らかにすることを目的とした今回の裁判は、こうした問題を早期に解決するために提起されました。

 九六年十月の請求団結成から六年。大きな成果の一方で、百八十四人が亡くなっています。国はこれ以上の苦しみを患者・家族に強いるべきではありません。

 (徳永慎二記者)

 


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