日本共産党

2002年10月10日(木)「しんぶん赤旗」

自然のなぞ解く喜びと感動

基礎科学研究の大切さ痛感

小柴東大名誉教授のノーベル物理学賞によせて

前田 利夫科学部長


 小柴昌俊・東京大学名誉教授のノーベル物理学賞受賞が決まりました。自然科学分野での日本人のノーベル賞受賞は、一昨年の白川英樹・筑波大学名誉教授(ノーベル化学賞)、昨年の野依(のより)良治・名古屋大学大学院教授(同)につづき、三年連続となりました。

 ノーベル賞は、自然科学分野でもっとも権威のある賞です。日本人科学者の受賞は、日本人にとっての誇りであり、大きな喜びです。若い世代にとっては、希望と意欲をわきたたせてくれるでしょう。

 小柴さんは、自宅で受賞決定の連絡を受けた後、「この受賞を契機に、産業化とかの見返りのない基礎科学研究が、日本でもっと強力に推し進められればうれしい」と語っています。これは、基礎的な科学研究に携わっている研究者の共通した願いだと思います。

 昨年七月十一日、基礎科学で日本を代表する研究機関の所長が共同で緊急に記者会見を開きました。その日、総合科学技術会議(議長・小泉首相)が「科学技術に関する資源配分方針」を決定。それに危機感をもって、小泉首相に要望書(十四人の国立研究所長と四人の前・元所長の連名)を提出したことを説明するための記者会見でした。

 要望書は、総合科学技術会議の「方針」の方向が、産業競争力強化への科学技術研究の総動員を急ぐあまり、基礎研究や広範な研究分野の削減を示唆するものとなっていると指摘。この方針がそのまま実施されれば、「わが国の『科学と文化』および『科学と技術』の土壌を損ない、回復できない傷を残すことにもつながりかねません」と警告していました。

 最近、政府の科学技術政策には、目先の成果ばかりを強調することが目立っています。国立大学の行政法人化も、その流れのなかで進められています。大企業の要求に沿って、産学協同も強められています。遠山文部科学相の「日本の大学は基礎研究ばかり偏重しがち」(日刊工業新聞二〇〇一年五月三日付)という発言には大きな批判があがりました。

 昨年、ノーベル化学賞を受賞した野依さんは、「大学は産業界の下請けになってはならない」「産学連携は必要だが大学の本分を忘れてはならない」(日本経済新聞二〇〇一年十月十二日付)と語っています。

 四年前のことになりますが、政府は大学の共同利用研究所の施設や装置の運用経費を15%削減する措置をとりました。このために、今回のノーベル賞にも関係のある「スーパーカミオカンデ」や国立天文台など、世界的にも重要な役割を果たしている研究施設が、研究の継続が危ぶまれる事態が起きました。

 本紙では、スーパーカミオカンデの責任者だった戸塚洋二・東大宇宙線研究所所長、小平桂一・国立天文台台長(いずれも当時)ら各界の人の話を紹介し、予算削減をやめるよう訴えました。さいわい、その後予定されていた予算削減は中止されました。

 素粒子物理学、天文学、生物進化学など基礎的な科学研究は、私たちの生活にすぐに役立つとはかぎりません。しかし、自然のなりたちや法則性を明らかにすることは、人間としての可能性を広げることにつながります。これまでわからなかったことがわかることは大きな喜びでもあります。

 小柴さんのノーベル賞受賞の理由のひとつになっている、超新星爆発で発生したニュートリノがカミオカンデで検出されたというニュースが伝えられたとき、人類はまたひとつ、自然のなぞを解く新たな手段を手に入れたと、感動したことをおぼえています。

 小泉首相や遠山文部科学相にも、小柴さんの気持ちが伝わることを望みたいと思います。

 


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