日本共産党

2002年9月14日(土)「しんぶん赤旗」

旧日本軍の細菌戦は存在した―

東京地裁の初認定受け

問われる政府の姿勢


 日本軍の七三一部隊などが実行した細菌戦で被害を受けたとして、中国人遺族ら百八十人が損害賠償と謝罪を求めた裁判の判決が八月二十七日に東京地裁でありました。判決は細菌戦があったことを事実として認定。遺族らの請求は棄却しましたが、日本軍の行為を「非人間的」と断罪しました。しかし、日本政府は細菌戦の存在を認めず、真相を明らかにしようとしていません。侵略戦争に無反省な政府の姿勢をあらためて問う声が出ています。


 家永教科書訴訟の最高裁判決(一九九七年)で、七三一部隊が生体実験をしていたとの学説が認められていますが、細菌戦を事実認定した判決は今回が初めて。

 裁判で原告側は、多くの証言・証拠によって細菌戦の実態を明らかにしました。これにたいし、被告の国側はまったく反証しませんでした。

 判決は「各証拠を検討すれば少なくとも次のような事実は存在したと認定することができる」として、四件の細菌兵器の実戦使用を認定。「被害は誠に悲惨かつ甚大で、旧日本軍による当該戦闘行為は非人間的なものであったとの評価を免れない」としました。

 また、細菌戦は陸軍中央の指令によって戦闘行為の一環としておこなわれたものと認定。ジュネーブ議定書が禁止した「細菌学的戦争手段の使用」に当たり、被告には国際法上の「国家責任が生じていた」とのべました。

 しかし、国家責任は「国家間でその処理が決定されるべきもの」とし、一九七八年の日中平和友好条約などで中国が賠償請求権を放棄して「国際法上は被告の国家責任については決着した」と判断。被害者個人の賠償請求は認めませんでした。原告側はこの点を「言い古された法理論を踏襲した」(土屋公献弁護団長)と批判。八月三十日に控訴しました。

 東京地裁判決が認定した日本軍による細菌戦は次の四件です(判決文から要約)。

 (1)浙江省衢州市

 一九四〇年十月四日午前、日本軍機が飛来、小麦・大豆・布きれなどとともにペスト感染ノミを散布。投下物のあった地域でペスト患者が多発。被害者は千五百一人にのぼるとされる。周辺地域にも大きな犠牲をもたらした。

 (2)浙江省寧波市

 四〇年十月下旬、日本軍機が上空に飛来し、中心部にペスト感染ノミの混入した麦粒を投下。死亡者で氏名が判明しているのは百九人。

 (3)湖南省常徳市

 四一年十一月四日、731部隊の日本軍機が上空に飛来し、ペスト感染ノミと綿、穀物などを投下。死亡者は七千六百四十三人にのぼるとされる。

 (4)浙江省江山市

 四二年六月十日ごろから日本軍が江山県城を占領し、約二カ月後に撤退するさい、コレラ菌を井戸に入れる、食物に付着させる、果物に注射するなどしたため、コレラに罹患(りかん)して死亡する人が発生した。


国家責任認め、謝罪を

 裁判で細菌戦について証言した吉見義明・中央大学教授の話 日本政府が細菌戦の実行という事実を認めてこなかったなかで、裁判所が明確にその事実を認定し、国家責任を認めた意義は大きい。賠償がみとめられなかったのは残念ですが、今後の政府の対応が問われることになります。

 こうした判決が出た以上、政府は国際法に反して細菌戦をおこなった事実を認めて謝罪し、関係資料を公開するべきです。国際的にも生物化学兵器の廃絶が大きな課題になっているいま、日本が細菌戦への反省の姿勢を示さなければ、国際的にも厳しい目を向けられることになるでしょう。

 


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