日本共産党

2002年7月28日(日)「しんぶん赤旗」

有事法案追いつめた
廃案まで世論と運動を


 小泉純一郎首相が「今国会成立」を強調した有事法制三法案。国民の世論と運動によって、衆院有事法制特別委員会での採決もさせずに成立断念に追い込みました。秋の臨時国会に向けて巻き返しを狙う政府・与党の思惑を許さず、完全に断念させるたたかいが始まります。


「大誤算」

「通るはずだった」

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有事法制ストップをめざして6万人が集まった全国大集会=6月16日、東京・代々木公園

 政府・与党が、有事法案の継続審議を決めた二十三日の与党緊急事態法制協議会。出席者からは、「政府側は初めは不退転の決意を表明していたのにトーンダウンしている」(保守党の二階俊博幹事長)と恨み節が聞こえました。

 小泉純一郎首相は、二月の施政方針演説で、国会提出を明言。閣議決定の翌日の四月十七日には、「会期内でできるだけ成立させるのは当然」と言い切っていました。

 政府高官からは「連休明けに審議が本格的にスタートしても、連日(審議を)やれば三週間で成立可能だ」(四月上旬)と豪語する声も出ていました。

 もともと有事法制は、周辺事態法成立(一九九九年)直後から、連立与党が政権合意に盛り込み、政府に要求してきたもの。自民党関係者も「政治主導であり、自民党主導だ」と“自負”するほどでした。

 与党は今年一月、幹事長を含めた緊急事態法制協議会を立ち上げ、政府とともに法案作成作業を推進。自民党は、衆院有事法制特別委員会のメンバーに防衛庁長官経験者五人を投入するなど、体制を固めていました。

 「与党三党が国会を通すと確認したのだから、普通なら通るはずだった」。成立断念に追い込まれたことに、自民党関係者はこう悔やしがり、「大誤算」を認めます。

暴挙があだに

 政府・与党の思惑が崩れ始めたのは、与党単独で法案採決の前提となる公聴会日程の設定を強行議決した五月二十一日からでした。

 「月内衆院通過のためには、今日中に決めなければならなかった」と自民党の久間章生筆頭理事がのべたように、なんとしても成立をはかろうと企てた暴挙でした。

 野党四党は党首会談を開き、「議会制民主主義を踏みにじるもの」と一致団結して対決することを確認。及び腰だったマスコミも批判を始め、反対世論はいっそう広がりました。

 自民党内からも「議論を封じない方がいい」などと執行部批判が相次ぎました。

 政府・与党は「成立を期すよう全力を尽くす」(小泉首相)とし、七月末まで四十二日間の会期延長を強行したものの、結局、成立を断念せざるをえませんでした。

審議で露呈 欠陥ぶり

 有事三法案は、衆院有事法制特別委員会での審議を通じて、その危険性が明らかにされました。

 “武力の行使はできない”“強制動員はできない”という「周辺事態法」の二つのしばりを取り外すところに有事三法案のおそるべき内容がある――日本共産党の志位和夫委員長は同委員会の最初の審議でこう指摘しました。「日本有事」のためといいながら、米国が海外で引き起こす介入戦争に自衛隊が武力行使をもって参戦し、国民を強制的に動員するという法案の危険性が浮きぼりになりました。

 その一方、政府の答弁は右往左往し、説明不能に陥ることもしばしば。法案の欠陥ぶりが露呈しました。

 法案の核心をなす「武力攻撃事態」の定義すら委員会ではまともに答弁できず、「武力攻撃の発生」をどの時点で判断するのかについては、首相と官房長官・防衛庁長官の答弁が食い違うほどでした。

資格欠く暴言

 有事三法案の審議の最中に、防衛庁が情報公開請求者の身元調査リストを作成していたことが発覚、福田康夫官房長官の非核三原則「見直し」発言も飛び出しました。有事法案提出者である防衛庁長官と官房長官の資格が問われるとして、国民の間にも批判の声が広がりました。

 「平時」でさえ国民の人権をないがしろにし、国際情勢や世論次第では核兵器をもつこともありうるという政府が「有事」に国民の「自由と権利」を制限することの危険性を改めて示しました。


与党議員すら嘆く「定義」

「わかる国民いない」

 「法案がつまずいた原因は、防衛庁リスト問題をはじめとする政府側の失策のみならず、法案そのものの『欠陥』にある」(「毎日」七月十七日付)――。有事三法案がいかにボロボロであったかは、マスコミも今になって指摘していますが、法案を推進した与党からは審議中から嘆きの声が上がっていました。

 とくに「武力攻撃事態」の定義については、「これを読んでもわかる国民はなかなかいない」(自民党・岩屋毅議員)との声も。

 「そもそもこの法案、特に『武力攻撃事態法』は、議論を詰めないままに急拵え(こしらえ)で提出されたものであり、自民党の内部討議でも相当に議論のあった代物である」(自民党・石破茂議員)といいながら、有事法案をごり押ししようとした責任があらためて問われます。


流れ逆転

出発は150人集会

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 今国会開会日の一月二十一日、市民や宗教者が呼びかけた「有事法制」反対の国会内集会にかけつけたのは約百五十人。「数万人規模の集会ができるよう運動を」――集会での訴えは大きな運動に実りました。

 陸・海・空・港湾関係二十労組と宗教者の団体が呼びかけた「STOP! 有事法制大集会」は、党派や思想・信条の違いを超え、「有事法制を許さない」の一点で、四月十九日には五千人、五月二十四日には四万人、六月十六日には六万人がそれぞれ集まる集会を成功させました。

 「有事法制許さない! 運動推進連絡センター」によると、全国約四百五十の地域(七月二十三日現在)で有事法制反対のさまざまな取り組みがおこなわれました。大阪、京都、兵庫、高知などでは、労働組合の枠を超えた共闘が実現し、数千人規模の集会を開きました。

宗教界も次々

 「有事法制三法案は…国家総動員体制への道を切り開く重大な危険性を有する」「法案に反対し、同法案を廃案にするように求める」――日本弁護士連合会(日弁連)は、政府が有事三法案の国会提出を決定したことを受け、四月二十日の理事会で同法案に反対する決議をあげました。

 日弁連は六月にパネルディスカッションも開催。大阪弁護士会は同月、四百人のデモ行進をおこないました。

 宗教界も、有志や運動団体だけでなく、教団レベルで反対決議や声明が相次ぎました。

 仏教界では、真宗大谷派(東本願寺)が六月の宗議会で「有事法案の撤回を求める」決議を採択。本山修験宗、天台寺門宗が定期宗会で反対決議をあげています。

 キリスト教会でも日本基督教団、日本聖公会、日本バプテスト同盟、日本自由メソヂスト教団など多くの教団が反対を表明しました。

首長から懸念

 有事三法案には、国会提出直後から、地方自治体の首長から懸念の声があがりました。

 東京・国立市の上原公子市長は五月、小泉首相に対して質問書を送付。「有事法制を制定することの根拠は憲法条文のどこにあるのか」など、四十四項目をただしました。

 地方議会の決議も、五月十七日に三重県議会が有事法制関連法案の撤回を求める決議を採択。ガイドライン関連法のときを上回る、全国六県を含む四百八十四の自治体で法案撤回や慎重審議を求める決議が採択されています(二十三日現在、「有事法制許さない! 運動推進連絡センター」調べ)。

 全国知事会でも法案に疑問が相次ぎました。五月二十八日に都内で開いた同会の政策審議会では、政府の法案説明に出席した知事や副知事が意見を表明。

 小泉首相は六月十二日、官邸に知事らを招き、異例の意見交換をおこないました。


答弁不能

共産党の追及に

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日本共産党の木島日出夫議員(手前)の追及に、答弁できず事務方の説明を受ける福田官房長官(閣僚席右)と中谷防衛庁長官(閣僚席中央)=5月8日、衆院有事法制特別委員会

 「アメリカの戦争に国民を強制動員する『戦争国家法案』を断固阻止しよう」

 日本共産党は、小泉内閣が有事法制三法案を閣議決定した四月十六日、党声明を発表し、こう呼びかけました。

 党声明は、「心に響いた」「いまたたかわなければ」と反響を呼び、宣伝、署名、団体訪問、懇談などさまざまな行動に結びつきました。党中央では「有事立法反対闘争本部」(本部長・筆坂秀世書記局長代行)が、こうした行動の先頭にたちました。

専門家が評価

 「共産党はアメリカの戦争への協力という側面を重視していて反対の論理がはっきりしている」

 国会での論戦を聞いた安全保障問題の専門家は、こう感想をのべました。「政党・政治家は勉強が足りない。徹底的に議論しようとしない政党もある」と嘆いたうえで、“共産党は違う”と評価したのでした。

 五月七日の衆院有事法制特別委。日本共産党は本格論戦のトップバッターに志位和夫委員長をたて、自衛隊による海外での武力行使に道を開く現実的な危険性を浮き彫りにしました。

 日本共産党の指摘は運動とともに広がり、世論を動かしてきました。六月に開かれた地方公聴会では「米軍の違法な軍事行動に日本が加わる可能性が高まる」などの意見が出されました。

 木島日出夫議員の質問では、周辺事態法やテロ特別措置法などで海外に展開している自衛隊部隊への攻撃でも、「我が国」への攻撃だとして有事法制が発動する危険性が明らかになりました。

 この質問で、福田官房長官も中谷防衛庁長官もいちいち官僚に説明してもらわなければ答弁に立てず、記者席では「こんなに答弁できないんじゃ、この法案はだめだよ」の声がもれました。


残る火種

与党「秋に成立を」

 二十三日の与党緊急事態法制協議会で、安倍晋三官房副長官は「有事法制を成立する機運を逃すわけにはいかない。(秋の)臨時国会で必ず成立してほしい」と強調しました。

 政府・与党がねらっているのは、武力攻撃事態法案が今後二年以内に整備すると明記していた「国民保護法制」の概要を臨時国会の冒頭で示し、有事法案の成立をはかろうというもの。そのために「夏休み返上」(安倍副長官)で作業にあたり、スタッフも強化しようとしています。「国民保護法制が先送りされている」という保守系自治体などからの不満を逆手にとるとともに、一部野党を協議に引き込むための作戦です。

 また久間筆頭理事は、法案のうち「国民保護法制」を今後整備するとの規定以外を「全部凍結してしまったっていい」(「朝日」七月十二日付)と主張。担当大臣をおいての作業推進も提言しています。

 「国民保護法制」は、「保護」とは名ばかりで、米軍と自衛隊の作戦を最優先にするため、治安やライフライン、経済といった国民生活をまるごと統制下におこうというものです。

 「(有事三法案が)国会に出せたのは歴史的だった。この中で国民の議論もすすみ、(防衛庁以外の)各省庁もやる気になった」と、準備が加速することに自信を示す声も自民党内にあります。

宿願が背景に

 政府・与党が成立に向け執念を燃やす背景には九六年の日米安保共同宣言以来、アジア太平洋地域での共同作戦体制確立という宿願があります。

 九九年成立の周辺事態法は、「周辺事態」での対米支援を明記しました。

 しかし、「(米側に)支援協力の範囲・内容が…制限されすぎているというフラストレーション(不満)があることも否めません」(西元徹也・元統幕議長、『セキュリタリアン』八月号)というように、米側の求める水準に達していませんでした。だからこそ、米国の「アーミテージ報告」(二〇〇〇年)は「有事立法の制定を含むガイドラインの指針の勤勉な履行」を要求したのです。

 政府は、個別法整備のなかで米軍支援法制の整備を進める方針です。米軍の軍事作戦に対する、直接の国民動員もねらっているのです。

欠陥あるなら

 日本共産党の志位和夫委員長は二十四日の記者会見で、「有事法案は、海外での米国の戦争に武力行使をもって参加し、そこに国民を強制動員するのが本質」であり、「国民保護法制」は「法案の欠陥を埋めるものでも、本質を変えるものでもない」と指摘し、こう強調しました。

 「与党自身が(法案に)欠陥があると認めている以上、廃案にすべきだ」


「事の深刻さ伝えた『赤旗』」 ジャーナリストも高く評価

 「しんぶん赤旗」で三月十七日付から連載したマンガ「有事立法ってなに?」は大反響を呼び、パンフ普及は三十三万部を超しました。続編もインターネットの日本共産党ホームページに掲載され、利用されました。新潟・三條新聞(五月二十九日付)は一面のコラムでとりあげました。

 「法案を読んでも分からなくてもマンガを一読すると『有事立法』の中身が分かる。…アメリカの戦争に日本が参戦するようなものだ。マンガパンフを読むと、簡単には有事立法に賛成できない」

 新聞協会の紙面展望でも、有事法制の国会提出時の論説四十九本中で反対はわずかに二紙(明確な反対は琉球新報だけ)。こういうなか、有事法制の危険性を真正面から追及し、反対のキャンペーンを張った唯一の全国紙が「しんぶん赤旗」でした。

 「しんぶん赤旗」は一月以来の与党緊急事態法制協議会の動きを逐次報道。政府が与党に示した説明文書や法案概要などの全文を唯一すべて報道し、憲法学者などからは、「政府の意図、狙いがよくわかる」と評判を呼びました。

 ジャーナリストの斎藤貴男氏は、『ダ・カーポ』五月十五日号で他の全国紙の有事法制報道を批判しつつ、「今回、有事法制絡みで比較的まともな報道をした全国紙(?)は、『赤旗』だけである。…四月十四日付(見開き特集)が、読者に噛み砕いて事の深刻さをよく伝えていた」と評価。「赤旗」記事を抜粋して紹介しました。

他紙圧倒する報道

 「赤旗」は、四月以降だけで「日本が危ない 戦争国家づくり」など連載五本(三十回)、見開き特集五回、一ページ特集七回、「戦争する国、拒否します」やキーワードなどシリーズ企画三本(三十回)、インタビューに登場した人は「有事立法 わたしは反対」のコーナーや「発言2002 憲法・有事法制」などで五十人をこえました。他紙を圧倒する報道でした。

 テレビや全国紙などが有事法制反対の集会を黙殺するなか、国会前行動から地域のデモまで全国津々浦々のたたかいを伝えたのも「しんぶん赤旗」でした。こうしたなか、五月二十四日の四万人を集めた明治公園での集会を「朝日」「東京」などがようやく報じるようになりました。

 


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