2002年7月11日(木)「しんぶん赤旗」
国民一人一人に番号をつけ、氏名、住所などの個人情報を行政が管理する住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)。八月五日の施行を前に、与党内からも実施の凍結を求める声が上がるなど、三十一日に会期末を控えた国会の焦点の一つに浮上しています。(山岸嘉昭記者)
住基ネットは、すべての国民に十一ケタのコード番号をつけ、氏名、住所、性別、生年月日など六項目の個人識別情報をコンピューターで行政が一元管理する仕組みです。一九九九年に自民党、公明党などが強行した「改正」住民基本台帳法(日本共産党は反対)で、今年八月五日の実施が定められています。
コード番号と個人識別情報は、総務大臣が指定する「指定情報処理機関」である財団法人「地方自治情報センター」と全国の都道府県、市町村を結んだコンピューターネットワークによって、同情報センターが一元的に管理することになっています。
年金・恩給の支給、雇用保険の給付など、九十三の事務について、情報センターから国、自治体へ本人確認情報が提供されます。
政府は、全国どこの市町村でも、住民票の写しがとれるようになるなどと宣伝しています。
しかし、政府や情報センターに個人情報が集中し、行政による国民監視体制が強まることや、個人情報が漏えいし、プライバシーが侵害される危険性があります。防衛庁が情報公開請求者の身元調査リストを作成していた事件は、そのことを如実に示しました。
住基ネットと情報公開法を所管する総務省が、情報公開を請求した行政書士に上部団体を通して請求取り下げの圧力をかけていたことも判明しています。
プライバシー侵害などを防ぐとして政府が持ち出したのが、個人情報保護法制の整備です。九九年の国会審議で、政府は「民間部門も含めた個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが(住基ネット実施の)前提」(小渕恵三首相=当時、六月の衆院地方行政委員会)と答弁しました。しかし、実施の前提とした個人情報保護法制は未整備のままです。
しかも、今国会で審議中の民間を対象にした個人情報保護法案は、報道・表現の自由を脅かす危険がある一方、プライバシー権が明記されていません。行政機関個人情報保護法案も、個人情報の目的外利用や第三者提供にたいする罰則がなく、個人情報を保護するうえで不十分です。
野党四党は、これらの法案の廃案を求めるとともに、個人情報保護法制が未整備なままでは、いっそうの情報漏えい、プライバシー侵害を招きかねないとして、住基ネットの八月実施の凍結を要求しています。
共同通信社が六月三十日、七月一日に実施した世論調査では、住基ネットの実施を「延期し、再検討すべきだ」が51%、「中止すべきだ」が23%を占め、「このまま実施すべきだ」の13%を大きく上まわっています。
四日に国会内で開かれた住基ネットの実施凍結を求める超党派議員の集会では、自民党議員も参加し、「国が(情報を)すべて管理するのは民主主義の基本に触れる問題」(亀井静香前政調会長、五日付「東京」)と発言するなど、矛盾が広がっています。
地方自治体、議会でも住基ネットの実施凍結を求める声が相次ぎ、鳥取県議会、三重県議会を含めた五十九議会が延期、凍結を求める国への意見書を採択し、横浜市など七首長が延期の要望書を提出しています。
日弁連情報問題調査委員会委員長の森田明弁護士(46)の話 日弁連は、住民基本台帳ネットワークシステムの問題を重視し、昨年十一月と今年の六月と二回にわたり、全国の市区町村を対象にアンケートを実施しました。そのなかで、自治体が住基ネット稼働に費やす労力、財政の負担に非常に困惑し、住民のプライバシー保護に大きな不安を抱いていることが分かり私たちもあらためて驚いています。
国は、住基ネットについて「地方分権のなかで、自治体から言い始めた制度だ」といいます。しかし、責任をもって運用すべき自治体が、何ら権限をもっておらず、多くの自治体が、住基ネットにかかわりたくないと思っているのが実情です。
個人情報保護法制が未整備な状態で、自治体の方は、個人情報の漏えいやプライバシー侵害の防止などセキュリティーの保護に責任がもてないのに、国が個人情報を活用することについて、実質的な歯止めはありません。住基ネットの八月実施は、凍結すべきです。