日本共産党

2002年6月21日(金)「しんぶん赤旗」

4月の診療報酬引き下げで新基準

遠のく手術医療

心臓手術届け出病院 186→33に激減


 国会で審議中の医療改悪法案にさきがけて、小泉内閣が四月から心臓などの手術に「年間百例以上」など新しい「施設基準」を設けたことで、その基準に適合しない病院が続出。「このまま推移すれば、地域に広大な手術医療の空白が生まれる」と危機感が広がっています。(北海道総局・富樫勝彦記者)

小泉医療改悪 北海道にみる

 厚労省は、四月から実施した診療報酬を引き下げる改定で、百十種類の手術に「施設基準」を設け、基準を満たさないと保険から医療機関に支払う手術料を30%減額することを決めました。

 例えば心臓外科手術の「冠動脈バイパス移植」では、「担当常勤医三名以上でうち二名は五年以上の経験、年間百例以上」など、きわめて厳しい条件です。

 そのため「基準を満たす」と届け出た医療機関は激減。地域で患者の命にかかわる手術が受けられなくなる事態が懸念されています。

オホーツク圏届出施設ゼロ

 北海道では、三月まで全道百八十六病院・医院でやっていた「ペースメーカー移植・交換手術」が、四月からの新基準では、届け出が二割弱の三十三施設と、五分の一に激減してしまったことが、北海道社会保険事務局の調べでわかりました。(表)

 「オホーツク第三次医療圏(注1)」(網走管内)の広さは、都府県で全国四番目の秋田県とほぼ同じですが、その届け出施設はゼロ(図)。届け出たのは全道で十一市の病院だけです。

 「冠動脈・大動脈バイパス移植手術」にいたっては、届け出が全道でたったの十三施設。「オホーツク医療圏」も、「道南医療圏」も届け出がまったくありません。厚労省が地域に必要な診療体制を確保するとしている「第二次医療圏(注2)」は道内に二十一ありますが、その七割で届け出病院がゼロです。届け出たのは二百十二市町村のうち札幌市や旭川市など六都市の病院だけでした。

 「いまでも病院経営は赤字のところが多い。それなのに手術をして三割も減収になるのではとてもやっていけない。赤字覚悟で人手を減らして続けるか、その手術をやめるしかなくなる。これは地域医療の実態を無視したやり方だ」というのは北海道勤医協中央病院(札幌市)名誉院長で日本共産党道議の大橋晃氏。「いま問題になっている医療事故も元々は人手が足りない過密労働が背景にある。本当なら事故防止のため報酬を上げるべきなのに」といいます。

 心臓手術に力を入れているオホーツク圏のある道立病院の試算では、心臓関係の手術で基準を満たさない減額分が年間三千二百万円に達します。未届けの病院がみな手術をやめてしまうとは限りませんが、もし同病院がこの手術をやめてしまうと、広大なオホーツク医療圏で心臓手術をやれる病院が無くなります。

助かるものも助からない

 札幌医科大学の黒川一郎名誉教授は「体力が弱い小さい病院は『減額されるなら』と手術をギブアップしてしまう。厚労省の言うように、患者が集中する都市部の大病院が数をこなして医療技術が上がるか。そうじゃない。山で言えば裾野が無くなること。医師研修などにも悪影響を及ぼし、医療にとって決して良いことではない。これは仁術より算術が先に来た発想だ」と指摘します。

 患者にとっても深刻な問題。例えば稚内市で手術ができなくなると、特急で四時間の旭川市か、同五時間の札幌市に行かなければなりません。

 中央病院の松木一紀事務次長は「緊急を要する心臓手術などは大変なことになる。時間をかけて患者を運んだら、助かるものも助からない」と批判します。そして「手術施設基準の導入は、地域で重要な役割を担ってきた病院の活動を抑えてしまい地域医療の崩壊を招いてしまう。これに加え医療改悪法案で窓口三割負担や高齢者負担増を強いれば、物理的にも経済的にも患者・国民を二重に医療から遠ざけてしまう。この両方をなんとしても撤回させたい」と力を込めました。

 全国の多くの病院団体や医療団体が抗議の声をあげています。日本病院会や全日本病院協会などでつくる四病院団体協議会は声明と厚労省への質問状を出し、「医療の質の向上及び地域医療システムを全く無視する改悪と言わざるをえない」と批判するなど、多くが撤回を求めています。


 (注1)第三次医療圏 特殊、高度な医療需要に対応するため厚労省が設定した区域。おおむね都道府県単位に設定され、北海道の場合は六圏あります。

 (注2)第二次医療圏 一般の医療需要に対応するためと設定された区域。地域医療が完結する区域で、地域医療計画が作られます。全国に三百六十圏、うち北海道には二十一圏あります。

 

 


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